11代目となる新型「シビック」が誕生する。市販前のモデルという都合上、許されたホンダ栃木テストコースでのドライブ限定ではあるものの、最新の試乗記をお届けする。
狙うはデジタルネイティブ世代
1972年に誕生し、来年で50周年となるシビックは、のちの「MM思想」(マン・マキシマム/メカ・ミニマム:人のためのスペースは最大に、メカニズムは最小に)につながる斬新なコンセプトで生を受けた。世界170カ国で販売され、累計2700万台という途方もない販売台数を記録した、ホンダの代表的なモデルである。
そのシビックが新型で狙いを定めたターゲットユーザーは「ジェネレーションZ」。1990年から2000年後半に生まれたデジタルネイティブ世代であり、生まれながらにしてSNSに触れており、社会の責任や評価に敏感、特別感があり親しみやすい物を好むとされている世代へ切り込むという。劇的な若返りである。
スマホ世代の彼らとは年齢的に隔たりのあるバブル世代の筆者が、若返りを模索する新型シビックを評価する資格が果たしてあるのか迷いはしたが、僕にも自然に受けれいやすい仕上がりだったことが、シビックにとっていいことだったのかどうなのか…である。
掲げたグランドコンセプトは「爽快シビック」。たしかに造形はすっきりとシンプルであり、先代がそうであったようなゴテゴテと着飾ったデザインからの決別が滲む。
全長とホイールベースが伸ばされていながら、全高は抑えられている。前後に伸びやかなスリークな印象が強い。ジェネレーションZはつまり、免許取り立ての若者から20代後半のヤングファミリー。そんな若い世代へのラブコールではありつつも、団塊ジュニア層にも受け入れられそうな雰囲気を感じた。子育てファミリーにも都合がいい。あるいはさらに高齢のバブル世代、さらに上の悠々自適なリタイヤ組にも受け入れられそうな雰囲気がある。
本当の狙いは「全方位」
搭載するエンジンは直列4気筒1.5リッターターボ。最高出力は182psであり、最大トルクは240N・m。目の醒めるような加速をするわけではなく、走りはしなやか。アクセルレスポンスが整えられ、走りに柔軟性が加わった。何にも増して感動的なのは、エンジンフィールが劇的に上質になったことだ。どこかガサツな印象が残った旧パワーユニットをベースにしながらも、エンジン内部の剛性を飛躍的に高めた効果が遥かに格上のフィーリングに変身しているのである。
近い将来、内燃機関と決別し、全モデル電動化を公表したホンダだが、引き続きガソリンエンジンの改良は進めていくとの宣言でもある。
フットワークも整った。歴代のシビックのような刺激に満ち溢れたフットワークでもなくダッシュ力でもないが、爽快シビックから抱くイメージ通り、バランスの整った走り味である。
少子高齢化が叫ばれている昨今、ターゲットユーザーの若返りは各メーカーが積極的に取り組む施策ではある。だが、シビックはホンダの経営を支える屋台骨であり、これまでの販売実績が証明するように幅広い世代に受け入れられてきたモデルであることから、限定的な層へのアプローチではない。スマホ世代だけではなく、狙いを全方位的に向けているような気がした。
電動化を進めるホンダが主力モデルであるシビックを、ガソリンターボエンジン専用車にするはずもなく、2022年には激辛「タイプR」を追加予定であり、伝家の宝刀「e:HEV」(イー エイチ イー ブイ)ハイブリッドの準備も進めている。
本音の部分では、やがてジェネレーションZを超えて多くの世代に支持されることを望んでいるように思う。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。