アメリカが誇るマッスルカーの雄、新型「シボレー・コルベット」(C8型)が日本初上陸を果たした。米デトロイトショーでステージアップされたのが2019年のこと。煌めくスポットライトを浴び、期待が渦巻くなかでのワールドプレミア。あれから2年半が過ぎたいま、待望の1号車がついに日本にやってきたのだ。待ち焦がれたファンも多いに違いない。
デトロイトショーで落胆の声も
もっとも、デトロイトショーで華やかにデビューした新型コルベットに対しての評価は様々。決して満場一致での祝福ではなかった。というのも、C1型からC7型までのこれまでのコルベットは、全てフロントに大排気量エンジンを搭載し、太い後輪を駆動させるスタイルを踏襲してきた。典型的なロングノーズ・ショートデッキスタイルがコルベットのアイデンティティである。その一途な頑固さがコルベットブランドを輝かせてきたのだと思う。
だが新型は、パワーユニットをミッドシップに搭載。いわゆる“ラテンバイオレンス”系のフェラーリやランボルギーニといった、典型的なスーパーカースタイルになったのだ。大排気量エンジンを積む必要がなくなったノーズは低く短くなり、エンジンを積むことになったリアデッキは長くなった。落胆の理由はそれである。
デトロイトショーのその場にいた筆者も同様に落胆のため息をついた。外観から見る限り、これまで頑固一徹に守り通してきた伝統的なコルベットスタイルは影を潜(ひそ)めた。宗旨替え。「魂を売ったのだ」と、一抹の寂しさを感じたのである。
なぜミッドシップになったのか?
ただ、日本上陸を果たした新型コルベットをドライブしてみて印象が激変した。たしかに駆動方式はFRからMRに変わっている。新しいスタイルも馴染むには時間がかかりそうだが、走り味は伝統的なコルベットの面影を残している。容姿は変わっても、味わいは変わらないのだ。
まず、搭載するエンジンに変更がないことがあげられる。V型8気筒6.2リッターOHVエンジンであり、ターボチャージャーも組み込まれない。世界的な脱炭素化のなか、自動車の世界ではエンジンのダウンサイジング化が進んでいる。内燃機関の排気量を下げ、それによって失った出力の不足分をターボチャージャーで補う。
そんな手法がセオリーになりつつあるこの時代に、コルベットは6.2リッターのV型8気筒ユニットをそのままに、最高出力502ps、最大トルク637N・mを誇る。名機として名高いLT2型エンジンであり、つまりフロントに押し込んでいたパワーユニットを背中の裏に載せ換えただけに等しい。したがってパワーフィールはこれまでのコルベットのそのものであり、高回転までシュンシュンと吹け上がる。
走り味も同様にコルベットの伝統的なものだった。ミッドシップにしたことで限界域での挙動がシャープになったが、イタリアンスーパーカーがそうであるような神経質な操縦性ではなく、肩の力を抜いてドライブすることができる。
トランスミッションはついにオートマチックではなく8速ツインクラッチ式に。オートマチックのようなイージーなドライブを許容しつつ、電光石火のクイックシフトもこなす。市街地からサーキットまで、通勤通学からレースまで、守備範囲は広い。宗旨替えなどではないのだ。
なぜコルベットがミッドシップになったのか? 答えはモータースポーツにある。GMはこのところ「ル・マン24時間レース」を初めとした欧州型耐久レースに積極的な参戦姿勢を示している。そこでの戦いを有利にするにはミッドシップのほうが都合が良かったのだろう。
そしてそれはコルベットがアメリカの至宝であり続けるだけでは満足できなくなった。欧州制覇も目論んでいるのかもしれないと想像する。
ちなみに新型コルベットは歴史上初の右ハンドルをリリースした。日本でのシェア拡大も期待できる。
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