トヨタ自動車のハイブリッド(HEV)専用車「アクア」が誕生したのが2011年。グローバルで187万台を販売し、ヒット作となった。ハイブリッドコンパクトカーとしてそれほどの高い人気を得てきたにもかかわらず、10年間の沈黙を続けた。一般的なモデルサイクルは7年前後。新型の登場を待ち望んでいた人も少なくないだろう。
「バイポーラ型ニッケル水素電池」を世界初搭載
トヨタが掲げるメッセージは、「ハイブリッドの新しい走りの創造」だという。その通り、新型アクアで特に印象的なのは“EV的”な走行時間が増えたことだ。搭載するエンジンは直列3気筒1.5リッターユニットであり、トヨタの伝家の宝刀、新世代ハイブリッドシステム「THS II」専用車となる。
エンジン動力とバッテリーパワーを巧みに連携させながら走るスタイルだが、従来モデルでは、走行中はエンジンが起動している時間が長く、またバッテリーの電力残量が低下することでエンジン起動を迫られることもしばしばだった。その解決策の一つが、新しく開発した「バイポーラ型ニッケル水素電池」の採用である。従来モデルに搭載していたニッケル水素に対して、バッテリー出力は約2倍だという。低回転域はEVらしく力強く、スムースな加速が狙い。走行パターンの大幅な違いはないが、モーターパワー特有の力強さは増したように感じた。
ドライブモードを「POWER+モード」にセットすれば、さらにEV風の力強さが増す。そればかりか、アクセルオフによる減速G(ガソリン車のエンジンブレーキに相当)が強くなる。アクセルペダルのオンオフだけで加減速をコントロールする、いわば「ワンペダル感覚」が強くなるという、最近のEVモデルが好んで採用するシステムを新たに組み込んだのも特徴だ。
それによって、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み替え頻度が少なくなる。「POWER+モード」という名称から、スポーティな走りのためのシステムであるように錯覚するが、それだけではなく、郊外でのユルユルとした走行パターンでも効果的だった。
停電時に嬉しい給電システムを装備
給電システムを強化したこともトピックだろう。トヨタの他のハイブリッドモデルでも採用されている「非常時給電モード」(1500W対応の外部給電システム)を新たに組み込んだ形だが、それすらもEV感覚を強調する。災害での停電時やキャンプサイトで電力供給をこなすのはありがたい。
そもそもアクアは、特に日本市場を意識したモデルとして成長してきた。法人需要も2~3割に達する。ユーザー層も広く、「社会人になったばかりの若者が購入したいクルマNo.1」にも輝いた。一方、リタイヤ層のクルマとしての支持率も高い。いわば「国民車」としての意味合いが強い。その点では、強烈な個性を打ち出しているのではなく、万人が好む、言葉を変えれば、「誰にもどこにも不満がない」ことが求められる資質である。
10年間の“ジラシ”による買い替え需要も少なくないだろう。そのような「指名買い」に見事に応えてくれる実力を有している。没個性ではあるが、それこそが強烈な個性なのである。それを「安心感」と表現しても許されるに違いない。
時を同じくして日産は、このコンパクト5ドアハッチバックのジャンルに「ノート」をリリースし、高い人気を得ている。搭載するパワーユニットは、エンジンを発電機としてのみ機能させるEV、「e-POWER」である。新型アクアは、そのノートとディメンションが酷似している。5ナンバーコンパクトハッチとしてライバル関係にあり、ノートがEV感を強調していることの対比が興味深い。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。