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安易な「副業を利用した節税」に注意! 国税庁に否認された事例とは

高橋成壽

 国民の収入が右肩下がりとなり、所得対策の一環として政府が副業を推奨している事情もあり、「副業の赤字を活用して節税する」という方法が喧伝されるようになりました。これはどのような仕組みを利用しているのでしょう。また、なぜ否認される場合があるのでしょうか。すでに副業の赤字を使って節税してしまった人だけでなく、これから節税をしたいと考えている人も確認いただきたい内容です。

■安易な副業による赤字節税の否認とは?

 ある医師が通常の確定申告では雑所得とする原稿料を事業所得とし、様々な経費を計上したことで、事業所得が大幅な赤字となり所得税を減らすことに成功しました。所得税では収入の分類が雑所得の場合では赤字になっても、他の収入の黒字部分を減らすことはできません。しかし、事業所得の場合は、事業の赤字を他の収入の黒字部分と相殺させることができるようになります。このような黒字と赤字の相殺を損益通算といいます。

 国税庁としては、この医師の執筆を本業ではなく本業外の収入であるとみなしたことから、執筆は事業所得ではなく雑所得であるとしました。その結果、事業所得の赤字による給与所得の黒字分の相殺がなくなります。黒字が増えたことで所得税が増える結果となります。正しく表現しようとすれば、従来どおりの税額に修正されたと言えるでしょう。

■赤字を活用するとはどんな仕組みなの?

 この事例は多くの会社員や公務員が気をつけるべきです。なぜなら、副業の収入を事業所得にし、赤字として申告すれば、給与所得を減らすことができ所得税と住民税を減らすことができるからです。

 所得税では、収入の区分を10に分類しています。給料は給与所得、副業的な原稿料などは雑所得、いわゆる個人事業としての収入は事業所得となります。10の所得のうち、総合課税といって一年間に得た所得を合計して所得税を計算するものは、不動産所得、事業所得、給与所得、山林所得、一時所得、雑所得となります。この他、分離課税といって他の所得と合算せずにそれぞれ所得税を計算するものが、利子所得、配当所得、退職所得、譲渡所得となります。※国税庁「所得の種類と課税方法」を参照ください。

 このうち、損益通算という所得の赤字を他の所得の黒字と相殺できるものは、不動産所得、事業所得、山林所得となります。※国税庁「損益通算」を参照ください。

 雑所得では損益通算ができないため、所得税額を減らすには原稿料収入を損益通算できる所得に変更する必要があります。ここで、執筆業という事業を営む事業者になるという選択をするのです。結果として、少ない原稿料では各種経費を賄うことができず事業所得が赤字となります。事業所得の赤字は給与所得と相殺できるため、高所得の医師は所得税の納付を減らすことができたはずだったのです。

 しかし、国税庁側は、年収にして100万円にも満たない収入は本業とは言えず、事業所得という分類を認めないことで、損益通算を封じました。

 この仕組は、会社員と公務員にも適用できます。そのため、節税手法としてそれなりに認知されていると考えられます。

※一般的に公務員は副業禁止が多いと思いますがこっそり稼げるアフィリエイト収入を得ている人もいるようです。今後は、今まで収入が少ないにも関わらず所得税の節税を目的として副業を事業としていた人たちにも国税庁からの確認があるかもしれません。

 最近はコロナによって電子申告が増えてきました。手軽に申告できる反面、添付書類が少ないため多少ごまかして申告することもできてしまいます。今後は、あやしい申告の人には確定申告後に調査が入るようになるでしょう。

 以前、筆者のところにも簡易調査の依頼がありました。iDeCoに加入しているか、医療費控除の根拠となる書類の提出など、電子申告によって手軽に確定申告ができるようなったため、虚偽申告が増えているのかもしれないと感じた出来事でした。

■どうすればよかったの?

 今回の医師の場合、所得税を減らす方法は2つありました。

(1)執筆ではなく本格的な事業を展開する

 例えば、医師としての知見を生かしてコンサルティング業務に従事したり、商品開発したりと自らリスクを負って事業を起こすのです。この場合、収入が雑所得に分類されることはないでしょう。判例で事業とは何かを明示していますから、営利性、反復継続性、企画性があることで、事業所得であると認めざる得ないことになります。

(2)不動産投資をする

 不動産投資の家賃収入は、不動産所得という分類となります。不動産所得は事業所得ほどではないですが、様々な必要経費を計上することができます。最も大きな特徴は、減価償却費という建物の経年劣化を経費にできること。支払いのない経費である減価償却費は、家賃を超える額であれば、不動産所得を赤字にさせる有効な経費になりえます。家賃収入であれば、雑所得に分類される恐れはなく、あくまでも不動産所得として確定申告することになります。

 ただし、気をつけるべきは、節税を主たる目的として不動産を購入すると、市場価格よりも高額の物件を買うことになったり、家賃収入の期待できない物件を購入する可能性が高まります。手元資金がなく物件の購入資金を借り入れで賄う場合は、家賃が入らないにも関わらずローンの支払いだけ発生する事態も懸念されます。数年前に問題なったかぼちゃの馬車のような危険性もあるわけです。

 本来は、税務は税理士に相談すべきであったということ。また、納税を受け入れて手取りを上手に資産運用して節税に頼らずに資産を拡大していくことです。節税が目的になると多くの取り組みは後でしっぺ返しが待っています。筆者の周囲にも家族に確定申告を任せている医師が多いのですが、早々に専門家に依頼したほうがよいでしょう。

 なお、確定申告が否認されて税額が増える場合は、ペナルティである延滞税など所得税本税以外の税金も発生し、結果として損することがあり得ます。

高橋成壽(たかはし・なるひさ) ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役
1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。

【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら