教育・子育て

期待されるスクールカウンセラー、悩み解決の糸口探る心理のプロ

 【チーム学校】子供たちが安心して学校生活を送れるよう話を聞き、心理的にサポートするのが、スクールカウンセラー(SC)だ。悩みや不安を持つ児童生徒からの相談に応じる他、保護者との面談も行う。教員と連携して子供の抱える問題のアセスメント(原因の見立て)を行い、解決策を検討する。対応する事案は不登校、発達障害、貧困、虐待など多岐にわたり、早期にこうした兆候を発見することも期待されている。

 大阪府内の公立小学校で6月中旬、SCの橋本大輔さん(37)=仮名=が手帳を手に、2年生の教室の後方から、子供たちの様子を見守っていた。

 一番後ろに座った女子児童は、授業中なのに教科書を閉じたままだ。橋本さんは教科書を開くよう促しながら、壁に張り出された子供たちの図工作品に目をやる。多彩な色遣いの作品が多い中、この女子児童の絵はほぼ青一色。「『これは何色』という自分のルールを変えにくいタイプなのかも」。こだわりが強いと、学業や友人関係でつまずく恐れもある。

 橋本さんがこの学校で勤務するのは月に2回、午前10時から午後4時45分。保護者との面談予約がある時間以外は校内を巡回している。授業中に落ち着いて座れない、板書ができないなどの態度や言動から、発達障害や心身の不安定な状況が垣間見えるためだ。

 こうした情報は、子供の悩みを解決する糸口になりうる。「早く困りごとの原因を見つけて必要なフォローをすれば、子供は生きやすくなります」

 教員との連携を密に

 児童生徒の指導を担うのは教員であり、SCの役割はあくまでサポートだ。文部科学省の有識者会議によるSCの職務のガイドライン(平成29年)では、必要に応じて面談などで得た情報を教員と共有したうえで、対応策を助言するよう定めている。

 橋本さんはこの日、3人の保護者と面談し、児童の家庭での様子をそれぞれの担任に話した。登校を渋りがちな5年の男子児童について、「友達の言葉に打たれ弱いのが気になる。対人関係に注意してほしい」と橋本さん。「頑張っていることを褒めるようにしている」という担任にうなずき、「自信の基盤がしっかりすれば、(友達に何か言われても)乗り越えられる」とアドバイスした。

 橋本さんが目指すのは、教員に「ちょっと相談してみよう」と思ってもらえる関係だ。実際に橋本さんが廊下を歩いていると、教員が次々と話しかけてくる。「あの子、最近は落ち着いて過ごせています」「さっき給食中に泣き出して…」

 SCは、子供の変化に最も気づきやすい教員と情報交換することで、子供の現状を正確に把握し、適切な対応を検討できる。だが、うまく連携できるとはかぎらない。教員とSCが互いに抱え込んで相談や情報共有をしないケースもあれば、逆に教員がSCに問題を任せきりにし、当事者意識が薄れる場合もある。近畿圏の複数校で勤務する男性SCは「面談中の子供への対応を丸投げされることもある」と打ち明けた。

 橋本さんは普段から積極的に教員に話しかけ、職員室で一緒に給食を食べるなど「仲良くなるために一生懸命」と笑う。もちろん、相談を持ち掛けられた際の対応力があってこその、教員からの信頼だ。

 悩む保護者にヒントを

 SCの数は全国的に増えている。そこで課題として浮かんできたのが、SCの問題解決能力の個人差だ。

 SCは一般的なカウンセラーと異なり、保護者への助言が求められる。だがSCの大半を占める臨床心理士の中には、話を聞いて受け止めるといった一般的なカウンセラーとしての対応しかしていない人も多いという。

 橋本さんも臨床心理士で、大学院の実習先である精神科で主に学んだのは傾聴を中心とするカウンセリング手法。アドバイスはせず、「患者の話を傾聴し、患者自身の気づきで考え方や行動が変わることを目指す」(橋本さん)ものだった。

 だが保護者に同じ手法をとれば、「ただ話すだけで進展がない」と不信感を抱かれることもある。「初めは問題を解決できず悔しい思いをした」と橋本さん。そうした経験をもとに、困りごとを減らすためのヒントを伝えるようになった。例えば子供の無気力に悩む保護者には、どんなときに楽しんでいるかを観察してもらう。子供に自信をつける必要があれば、小さなことをすかさずほめるようアドバイスする。

 傾聴だけでなく助言を-。SCが学校現場で真価を発揮するため、意識の転換が求められている。

 面談室は心地良い居場所に

 児童生徒らとの面談を行うカウンセリングルームは、学校やスクールカウンセラー(SC)によって雰囲気が異なる。専用の部屋があり、SCが自由に調度品を配置できる学校もあれば、会議室を転用しただけのところもある。

 SCの指導を担う大阪府のスーパーバイザーで、自身も中学のSCを務める良原恵子さん(63)が心掛けるのは、「子供たちにとって心地の良い居場所になること」だ。ある勤務先の中学のカウンセリングルームには、大きなソファやぬいぐるみ、クッションがある。折り紙やボードゲーム、漫画なども置かれ、中には「子供が大きくなってもう使わないから」と教員から寄付された物も。ひな祭りやクリスマスなど、季節を感じられる小物もさりげなく飾る。

 良原さんはどの学校でも、休み時間に生徒らが自由に出入りできるよう、面談中以外は部屋を開放する。良原さんと雑談しに来る生徒もいれば、友人とゲームをしに来る生徒や、昼寝をしに来る生徒も。「私と話さなくてもいい。何か問題を抱えたときに来やすいよう、部屋の雰囲気を知ってもらい、私と顔見知りになってもらう」。中には何度も訪れるうちに、「今日の放課後、(面談時間は)空いてる?」と尋ねてくる生徒や、悩みを書いた手紙をこっそり手渡してくる生徒もいるという。

 常駐わずか、月1回の学校も

 スクールカウンセラー(SC)は不登校やいじめの防止などを目的に、平成7年度に研究事業として一部自治体で始まり、13年度から全国に拡大した。実施主体は都道府県と政令指定都市で、国が事業費の3分の1を補助している。

 文部科学省によると、ごく一部を除きSCは学校に常駐せず、1人のSCが複数校を兼任。1校あたり週1日の勤務とする自治体が多いが、特に小学校では月1~2日の自治体もあり、地域差が大きい。

 文科省の有識者会議によるSCの職務のガイドラインは、学級や学校全体の課題を把握するため、授業や行事に参加するなどして子供たちの状態を見立てるよう求める。だがある男性SCは「月1日の勤務では、予約された面談を行うだけで終わることもある」と話す。

 名古屋市立大大学院の伊藤亜矢子教授(学校臨床心理学)は「SCが子供のSOSに気づき、教員とチームワークよく働くためには、関係をつくるための時間の確保が必要」と指摘し、週1日以上の勤務が必要との考えを示す。一方で、SCの人数や勤務時間を増やそうにも、財政面や人材の確保に課題を抱える自治体も多い。

(藤井沙織)

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