試乗スケッチ

国民車「カローラ」にも“クロス”登場 時代が求める都会派アウトドアスタイル

木下隆之

 日本の国民車、トヨタ「カローラ」にもまた新たなモデルが加わった。その名も「カローラクロス」。時代は“クロス”の流行真っ盛り。トヨタが大衆的な「ヤリス」をベースにクロスカントリー風の性能と雰囲気を与えた「ヤリスクロス」は、瞬く間に人気モデルへと成長した。その余勢を駆って、カローラの派生モデルともいえる「カローラクロス」を発表したのだ。

カローラにもクロスモデルが登場(トヨタ自動車)
カローラクロス(トヨタ自動車)
カローラクロス(トヨタ自動車)
カローラクロス(トヨタ自動車)

 コロナ禍がもたらしたアウトドアニーズ

 日産は「ノートオーラ」にアウトドア色を強調した「クロスオーバー」を追加。三菱はオフロード性能を意識した「エクリプスクロス」をリリース。軽カーには、行動的な「sKクロス」をラインナップというように、各社が積極的に“クロス”系のモデルラインナップを拡充している。

 クロス増殖の風潮は新型コロナウイルスがもたらした生活スタイルの変化が理由でもある。リモートーワークを主体にした生活様式になり、度重なる緊急事態宣言で外出もままならない。三密回避が基本になり、自宅で過ごす時間が圧倒的に増えた。

 一方で時間的余裕が増えた。日本のGDPは2020年には一旦下降。だが、収入源に寄り添う形で娯楽への出費が減り、レジャーへの欲求が募る。その矛先が、アウトドアブームを巻き起こしている。クロス系の派生モデルが増殖しているのは、時代の自然な欲求なのかもしれない。

 自動車メーカーにとっても、クロス系の派生モデルの開発は都合が良い。ベースから開発せずにしなくて済む。膨大な開発費を投じなくても、例えばフェンダーにモールをあしらうなど、既存の素材にアウトドアを感じさせる装飾を施し、手持ちの4輪駆動システムを盛り込めば、本格的なクロスカントリーモデルではなくとも、山坂道やキャンプサイトで映える“クロス”を作ることができるからだ。

 都会の生活に寄り添うクロス

 カローラクロスも同様に、カローラをベースにアウトドアを意識した作り込みである。SUV、あるいはワゴン的な雰囲気を滲み出し、一般的な流儀によってフェンダーモールでクロスカントリー感を強調している。

 ただカローラクロスは、装飾を整えただけではなく走りも整えている。サスペンション系は荒れた路面での不快な乗り心地を抑えるべく細工を施している。パワーユニットは直列4気筒の1.8リッターを基本に、ガソリンモデルとハイブリッドを準備。ハイブリッドには当然モーターによるアシストが加わるのだが、そこにも荒れた路面への心憎い配慮が窺える。路面の凹凸に応じて、電気モーターのトルクを瞬間的に制御、ボディの上下動を抑えるのだ。これにより滑らかでフラットな乗り心地が得られるのだ。

 実際にドライブした印象でいえば、クロスカントリーという言葉の響きから想像するような荒い乗り味は皆無である。荒地での効果も期待できるが、むしろ都会を颯爽と闊歩するに適したセッティングが窺える。

 実は、昨今のクロス系派生モデルの増殖は都会的SUVの趣向ともイコールなのだ。新型コロナウイルスに端を発したアウトドアへの欲求は、アクティブな生活への憧れが根底にある。とはいうものの、泥まみれになって道なき道を突き進むようなハード系のオフロード党ではなく、都会的生活の延長線上にそっと寄り添うだけのクロスカントリー色が求められているのだ。

 それが証拠にカローラクロスがラインナップするE-Four(4輪駆動)は、本格的なクロスカントリーに対応するものではなく、寒冷地仕様ともいえる生活四駆にとどめている。ゲレンデまでの積雪路で威力を発揮するには違いないが、あくまで穏やかな都会的“クロス”なのだ。

木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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