アンパンマンの声をライフワークと位置づける戸田だが、やなせさんが亡くなった後は大きな喪失感を味わい、「道しるべを失ったと感じた」という。心に穴が開いたような日々を過ごしていたある日、仙台にあるアンパンマンこどもミュージアムを訪れ、考えが変わった。「子供たちは大人の事情なんて関係なく、アンパンマンの着ぐるみと無心に遊んでいました。アンパンマンは誰かのものではなく、子供たちみんなのものなんですね」
ずっとアンパンマンの声を担当してきて、「すてきだな」と感じることがある。例えば、お金の話が一切出てこない点。「今回のお話も、いいリンゴを作ろう、ふるさとを再建しようという純粋な動機から始まっています。利益だとか損得だとか、生々しい話はありません」。アンパンマンのあんこには「勇気の花のジュース」が練り込んであるなど細かな設定があり、なかなか奥深い。食パンマンやカレーパンマンは物を食べるシーンがあるが、「アンパンマンは決して食べません。『おいしかった』というせりふは一度もありません。唯一無二の不思議な存在なんです」。