「エイリアン」か、「プレデター」か。こんもりと盛り上がったグロテスクな石柱の陰から何が襲ってきたとしても想定の範囲内だ。
山奥にある524段の階段を上ったところにようやく入口が現れた。今度は下へ、下へ。ぽっかり空いた広大な暗闇に向かって、再び現れた階段が延々と続く。
コウモリ避けだろうか。洞口付近に超音波のような電子音がかすかに鳴っている。入場者は少なくシーンとしており、周囲の鍾乳石に沁み入っていく。
ラオス国境に近いベトナム中部の山岳地帯にあるフォンニャケバン国立公園。調査が終わっていない大規模洞窟が多数存在し、2003年に世界遺産に認定されている。
指定エリアから外れているため世界遺産ではないものの、05年に発見された「天国洞窟(ティエンドン)」と称される洞窟は、その中でも最高峰との評価を得ている。天国よりも地獄に近い印象だが、この世のものではないことは確か。
整備が進み10年から鑑賞できるようになったが、麓の村々が洪水被害に遭ってアクセス道路が寸断。13年からようやく安心して訪問できるようになったという。最寄りの田舎町ドンホイからでも1時間以上バスに揺られなければならず、外国人客はあまり訪れることのない穴場のスポットだ。
約31キロに及ぶ世界最大級の大洞窟だが、一般公開されているのは入口から1キロほど。それでも駅前の雑居ビル群が丸ごと入りそうな空間に最新のSFX映画もひれ伏する異次元の世界が広がっている。
階段にある手すりを触るとぬめぬめした感触。鍾乳洞なのにまるで乾き切った廃墟を思わせる光景だが、いまも年間数ミリずつ成長を続けていることがうかがえる。
巨大な石柱が斜めにそそり立っている。数億年かけて徐々に大きくなった自らの重みに耐えかね、天井から落ちてきたのだろう。それとも積み上がった石筍が崩れたのだろうか。それもまたゆっくりと地底と同化していくのだ。
天国洞窟の前に世界遺産地区にある洞窟を2つ鑑賞した。ソン川をボートに乗ったまま入っていく「フォンニャ洞窟」と、そのボートを降りてトレッキングした後に現れる「ティエンソン洞窟」。
以前は青、赤といった原色を使った派手派手しいライトアップがなされていたが、最近になって白や淡い黄色といったより自然なものに変更されたという。
悪趣味と散々批判された末に今の状態になったそうだが、見られないとなると見たくなるのが人間の性。それはきっと「未知との遭遇」なのだろうな。(産経デジタル 長浜明宏)
取材協力:ベトナム航空