■不必要な検査や医療は受けないで
第1章から第3章は、高い専門性を利用し、がん治療でやりたい放題のことをしている医療界の印象を強く印象づけたが、第4章以降は、間違った治療や検診に立ち向かう著者の戦いにシフト。どのように戦い、その過程で達した新境地が中心になっている。
苛烈な戦いに、著者には味方する者などおらず、孤独な戦いを強いられる。そのため採用した戦法が、メディア利用し患者を味方につけることだった。『文藝春秋』にある論文が掲載されるとき、二人の娘に対して語ったことが、戦いの苛烈さを物語っている。
原稿を編集部に渡し、輪転機が回っている頃、ぼくはふたりの娘を呼び寄せて語った。「パパはこれから外科を相手に一戦かまえる。それで、いろいろ迫害されて、うちは貧しくなるかもしれない。覚悟しておいてくれ」と。(※第5章 132ページ)
そして、戦いは無傷では済まず、代償が伴う。著者が支払った代償は、出世の道を完全に断たれたことだった。覚悟を決め、万年講師の道を受け入れた著者だが、覚悟を決めた人間は強く、しぶとい。万年講師生活で得られた時間を使って最新の医学論文を読み込み、メディアを利用してこれまでのがん治療やがん検診を真っ向から否定する言論活動を活発に展開する。その真骨頂といえるものが、『患者よ、がんと戦うな』であった。