ただし「ペリー幼稚園プログラム」のデータを用いた一連の研究では、認知能力、非認知能力、そして親のかかわりという3つが厳密には切り分けられていなかった。現在、シカゴ大学のジョン・リスト教授らが新しい調査に取り組んでいる。これはシカゴの貧困地域に住む就学前の子供をランダムに4つのグループへ振り分けた追跡調査だ。リスト教授らが新しく作った「認知能力」を重視した教育課程の幼稚園、「非認知能力」を重視した幼稚園、幼稚園には通わないが保護者が「保護者のための学校(Parenting Academy)」に参加し、子供の発達度合いに応じて年間最大7000ドルを受け取れるグループ、そしてそのいずれの対象にもならないグループの4つである。
「これまでの研究では、就学前の教育が重要だということはわかっていても、『何をすればよいのか』ということについての答えが十分に示されているわけではありませんでした。この調査が進めば、幼児教育へのより効果的な投資のあり方が明らかになるでしょう。報道などを通じてリスト教授の最近の発言を見ると、非認知能力を重視した教育課程の子供たちの発達が顕著なようです」(中室氏)
「先送りがち」の人は禁煙や貯金も無理
非認知能力の重要性を示す実証例は日本にもある。神戸大の西村和雄教授らによる研究では、「嘘をついてはいけない」「他人に親切にする」「ルールを守る」「勉強をする」という4つのしつけを「受けた」と答えた人は、「受けなかった」と答えた人に比べて、年収で86万円の差があった(図3)。