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言葉の海で溺れずきれいに泳ぎ切りたい 過剰な「自己防衛」に使うことなかれ (2/3ページ)

安西洋之

 「あまりに頭に来たから、思いっきり日本語で文句を言ったら、相手はもう黙ったよ」と自慢する。

 相手は何とも思わなかっただろうな、とぼくは想像する。相手が何も理解できない言葉で怒ったところで、剣幕にウンザリはするだろうが相手の心は何も傷がつかない。

 昔、ぼくの日本人のボスが語ったものだ。

 「イタリア人の奥さんと喧嘩した際、相手を撃沈させるにはイタリア語でやりこめるのだ。向こうもぼくを日本語でやり込めようとする」

 ことは流暢さではない。相手の痛いところを衝くには、相手の分かる嫌な言葉で攻撃してこそ意味がある。日本語の分からない相手に日本語で怒鳴るのは、あまりに子供じみている。

 武勇伝などおよそ子どもじみたものだ、と言えば身もふたもないが、前述のオバサンもああいう物言いを他人に自慢しているかもしれない、ともふと思ったのだ。

 その場に相応しくないまったく別のレベルの表現で煙に巻く。たまにそれで有利に立つことがあるかもしれないが、全然効用を発揮しないケースの方が多い気がする。

 それでも、そのような手法を用いる人はさほど減らない。なぜなら自己満足度が高いからだろう。

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