【高論卓説】筋トレで“ウィンウィン” 手軽な人生100年時代の健康法

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 筋肉トレーニングがブームを呼んでいるようだ。2018年8月にNHKが5分番組「みんなで筋肉体操」を4回シリーズで放送したのがきっかけで、今年1月にも新番組が4回シリーズで放送された。

 番組で繰り返し使われたフレーズ「筋肉は裏切らない」は、昨年の流行語大賞にも、ノミネートされた。放送枠が深夜だったため、健康な層とは異なる視聴者が見たことが、逆に筋トレに目覚めさせたのかもしれない。

 筋トレは、お金をかけて本格的な道具を使わないとできないイメージがあるが、番組では身の回りにあるものだけでトレーニングができるように工夫していた。この手軽さも、人気の秘密かもしれない。

 ただ、講師以下、出演者が全員筋骨隆々なので、筆者のように番組を見て、そこまで到達できないと諦めてしまう視聴者もいそうだ。筋肉の塊のような男性だけでなく、普通の人に出てもらって変身後の姿を見せた方が、視聴者の興味を引いたかもしれない。

 筋トレは、シニア層には関係ないと思われがちだが、シニアにとっても、おおいにメリットがあるようだ。高齢者に多い「サルコペニア肥満」は、筋肉量が加齢に伴い低下する一方で、脂肪が蓄積した肥満である。

 サルコペニアとは、ラテン語の筋肉を意味するサルコ(sarco)と喪失を表すペニア(penia)を合わせた造語で筋肉の減少を表す。

 筋肉量は40代から年に1%ずつの割合で減少するといわれており、60代だと20%減る計算になる。若い頃と体重や外観はあまり変わらないからと安心していられない。筋肉がそっくり脂肪に入れ替わっている可能性もある。

 一般的に加齢に伴って基礎代謝量は低下するが、運動する習慣がないと、筋肉が加齢とともに減少する。エネルギーを多く消費する筋肉が減ると、余ったエネルギーは脂肪に変えられて体にたまりやすくなる。単にダイエットするだけでは、脂肪だけでなく筋肉量も落ちて基礎代謝も減ってしまうため、脂肪がたまりやすくなるのだ。

 逆に筋肉を増やすと基礎代謝が増え、活動量も増えて肥満を予防し、生活習慣病の予防にもつながるというウィンウィンの関係になる。

 筋力が低下すると、日常生活に支障を来すため、転倒しやすくなり、骨折のリスクが増えることにもつながる。骨折は高齢者が寝たきりや要介護となってしまう大きな要因の一つでもある。筋トレで足腰を鍛えて筋肉量を増やすのは、高齢者の寝たきり予防に効果がある。

 17年の日本の平均寿命は、男性が81.09歳、女性87.26歳で過去最高を更新し、65歳以上の人口(高齢化率)は総人口1億2671万人の27.7%を占める。

 さらに、65年には平均寿命は男性84.95歳、女性91.35歳に伸長すると推計されており、平均寿命はまだまだ延びそうだ。

 これから迎える人生100年時代の課題は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義される健康寿命と、平均寿命との差をいかに縮めるかだ。平均寿命が延びたと単純に喜んでもいられない。

 現状で男性が9年弱、女性が12年強である差を縮小することは重要なテーマでもある。人生100年時代の健康法として筋トレが注目されている。

【プロフィル】森山博之

 もりやま・ひろゆき 旭リサーチセンター、遼寧中旭智業研究員。早大卒後、旭化成工業(現旭化成)入社。広報室、北京事務所長などを経て2014年から現職。60歳。大阪府出身。