【痛み学入門講座】多彩な薬理効果「紅参」

高麗人参
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 人参(にんじん)というと煮物に欠かせない金時人参、サラダの西洋人参を思い浮かべられる方が多いだろう。今回のテーマは、その人参ではなく“紅参(こうじん)”と呼ばれる薬用の人参である。この呼び名は、皮が付いたまま高温で蒸すと、アメ色に変わることに由来する(皮を剥(む)いて、そのまま乾燥したものは“白参”である)。別名の高麗人参の通りがよい。

 中国では数千年前の昔から、漢方薬の成分として広く用いられ、かの老子も「人参は生命の危急時の救急薬、益命長寿の強壮薬」と紹介している。以来、“不老不死の霊薬”と重宝されてきたが、当時は一定の地域の深山を探し回ってようやく手に入れることができる貴重品であった。学名は、Panax ginseng(万能薬の人参)である。

 わが国へは、天平11年(739年)に、中国の渤海国(ぼっかいこく)からの献上物として持ち込まれた。その後、江戸時代に、徳川吉宗の命によって日光の御薬園(おやくえん)で本格的な栽培が始まり、その種子が各藩に分け与えられたことから、御種人参と呼ばれるに至った。現在では福島県の会津地方などで栽培されている。なお、福島では風評被害払拭活動の一環として、ゆるキャラ“おたねくん”(所属は会津人参栽培研究会)とともに精力的な活動を行っており、そのキャラは結構イケている。

 さて、紅参はさまざまな漢方薬の成分(生薬)として用いられてきた。その薬理効果は多彩であり、疲労回復、体力増強、精神安定作用、血流の改善と動脈硬化の予防、胃潰瘍の修復などが一般的である。また、血液中のコレステロールや中性脂肪を低下させ、善玉のHDLコレステロールを上昇させることも知られている。さらに免疫機能を高めてがん細胞の増殖を抑える、とも考えられている。これらの作用を発揮する主な成分は、人参の表皮に含まれる“サポニン”(ジンセノサイド)である。

 現在、医療用として処方される紅参は粉末の“コウジン末”であり、他の漢方薬に加える形で用いる。これにより双方の効果がさらに高められる。たとえば、風邪をひきやすく疲れがたまり、食欲不振を訴えられる方には、免疫機能を増強する目的で“補中益気湯(ほちゅうえっきとう)”にコウジン末を追加する。また、更年期の女性で頭痛や肩こりなどがあり、イライラが…と訴えられる場合は“加味逍遥散(かみしょうようさん)”に加えて、との具合である。

 漢方薬は、体のバランスの乱れを正常に戻すことを目的として用いられることが多いが、そのなかでもコウジン末は、“ホメオスタシス”(恒常性維持機能)を高める代表的な存在といえるだろう。(近畿大学医学部麻酔科教授 森本昌宏)