□『象徴のうた』永田和宏著(文芸春秋・1800円+税)
「〈象徴とは何か〉、その誰も答えを持たない難問に正面から向き合い、自らの問題として」考えてこられたのが平成の天皇陛下である。
令和になってもう2カ月余。あのハロウィーンか年越しのカウントダウンかのような狂騒に終始した改元。平成とはどのような時代で、その中で天皇陛下は〈象徴〉として何をなされたのかを、じっくりと検証する企画はメディアのなかにも少なかったように思える。
『象徴のうた』は、長年、歌会始の選者を務めてきた著者が、主として天皇・皇后両陛下の御製(ぎょせい)、御歌(みうた)を通して平成の時代を顧みるというものである。
平成2年11月、即位の礼の5日後に発生した雲仙普賢岳の噴火。直後に被災地を訪問され、両陛下とも膝をついて被災者と同じ目の高さで人々の声に耳を傾けられるという映像は私たち国民に大きなインパクトを与えた。その姿勢はその後の〈阪神淡路大震災〉〈東日本大震災〉など平成の時代のことあるごとに変わることはなかった。
その行為の意味を、著者は「〈象徴〉像の本質は、『国民と共にある、国民に寄り添う』という点が第一義」としつつ、それは「平成の天皇が、手探りで、試行錯誤しながら模索してこられたなかでたどり着いた結論」とみる。
サイパン島をはじめとする先の大戦の激戦地への慰霊の旅、バンザイ・クリフに向かって静かに黙祷(もくとう)なさる後ろ姿に私たちは深く感動した。〈寄り添う〉とともにそこには〈祈り〉がある。そして〈祈り〉が具体的に表れるのが御製、御歌の力である。