ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会が盛り上がっている。9月28日には日本代表が優勝候補アイルランドから大金星をあげた。だが、ここまでには苦難の道のりがあった。前回W杯で日本代表のキャプテン(主将)を務めた廣瀬俊朗氏に「日本代表がやったこと」を聞いた。/聞き手・構成=山川 徹
「結婚するならフロントロー」というポジション解説
――ラグビーには「ルールが複雑」というイメージがあります。しかし、廣瀬さんの著書『ラグビー知的観戦のすすめ』(角川新書)ではわかりやすくラグビーの本質を解説されています。たとえば第1章では「ラグビーをやっているのは、こんな人たちだ」として、「結婚するならフロントロー」「学級委員にするならハーフ団」など各ポジションをキャラクターにたとえていて驚きました。
ラグビーのルールやプレーがなんのために生まれたのか。そもそもラグビーとはどんなスポーツなのか。とにかくわかりやすい形で、ラグビーの持つ魅力をつたえることができれば、と思ったのです。
――歴史の解説も豊富です。スクラムやラインアウトなどの「セットプレー」の原点が中世イングランドの村祭りにあったことなどは、経験者でも知らない話でしょうね。
ラグビー選手たちは、一つひとつのルールやプレーを深く掘り下げる機会はほとんどありません。ぼく自身も現役時代、ルールや戦術の根本については漠然とした理解にとどまっていました。この本を書くことで、改めて勉強することができました。
たとえば、ラグビーチームの監督は試合中、観客席にいます。だから試合で状況判断を下るのはグラウンドに立つキャプテンの役割です。このためほかのスポーツに比べて、ラグビーのキャプテンはとても重要なのです。
では、なぜ、そうなったのか。
キャプテンが重視され、レフェリーが尊重される理由
その源流は、ラグビーのルーツであるフットボールにあります。かつてのフットボールは、現在のサッカーとは異なり、数百人、数千人単位の村全体でボールを奪い合うゲームでした。19世紀になるとイギリスのパブリックスクールにも広まり、学校ごとにルールがつくられました。しかし共通のルールがないため、試合中、キャプテン同士が「さっきのプレーは反則ではないか」などと話し合ってルールを決めていました。
でも、それではゲームが進まない。そこで両チームのキャプテンが信頼する人にレフェリーを依頼するようになりました。それが、ラグビーで、キャプテンが重視され、レフェリーが尊重される理由なんです。
――ラグビーのルーツに関心をもったのは、どんなきっかけがあったんですか?
2016年3月に現役を引退してから会社員として働いたり、他競技のアスリートたちと会ったりするなかで、ラグビーの魅力に気付かされる機会が多かったのです。
なぜラガーマン同士はこんなに仲がいいのか
――引退後、ラグビー観に変化があったのですか。そもそも廣瀬さんはどんな魅力を感じてラグビーをはじめたのでしょうか。
ぼくは5歳のときにラグビーをはじめました。ボールを持って走ったり、トライしたりすることが純粋に楽しかった。ほかの球技は、手を使ってはあかん、あるいは蹴ってはあかん、と制限がありますが、ラグビーはボールを投げても蹴っても、相手にぶつかって奪いとってもいい。球技と格闘技の要素を併せ持ち、なおかつ自由なところが面白いと感じました。
引退してからぼく自身がラグビーのどんなところに惹かれたのか、改めて掘り下げてみて1つの答えが見つかりました。それが、自己肯定感やな、と。
――どういうことですか?
テレビドラマ『ノーサイドゲーム』で、お笑いコンビ「ブリリアン」のコージと共演しました。彼はアメフトで大学日本一を経験した元アスリートなのですが、たびたび「ラグビーをしていた人はなんでこんなに仲がいいんだろう」と口にしていたんです。
確かに、ぼくの周囲を見渡しても、ラガーマン同士は仲がいいし、明るい。そこで、その理由を踏み込んで考えてみました。