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地球温暖化防止へ 欠かせぬ原子力 パリ協定始動 問われる日本の貢献

 今年の日本は未曽有の台風被害に見舞われた。地球温暖化が原因とされる異常気象が深刻化しており、対策は待ったなしだ。2020年から温室効果ガス削減に関する新たな国際的な枠組みである「パリ協定」の運用がスタート。日本は温室効果ガスの排出量を30年度に13年度比で26%削減する公約の達成が求められる。だが、排出量全体の約4割を占める電力部門は、発電時に温室効果ガスを排出する化石燃料に依存する状態が続いており、多様な電源をバランスよく組み合わせる「エネルギーミックス」の実現が欠かせない。

CO2削減は急務

 「世界的な批判は認識している。地球温暖化対策をさらに強化する必要がある」

 スペイン・マドリードで開かれた国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)で、小泉進次郎環境相は11日の閣僚級会合で演説し、石炭など化石燃料への依存度が高まっている日本への批判を踏まえ、こう語った。

 日本にとっても温暖化対策は待ったなしだ。10月に日本を直撃した台風19号は、海水温が高い海域を移動しながら急速に勢力を拡大。日本近海の海水温も高かったため、勢力を維持したまま上陸し甚大な被害をもたらした。海水温の上昇は温暖化が原因と考えられており、専門家は「温室効果ガスの削減は一刻を争う」と警告する。

 来年から実施段階に移るパリ協定は、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べ2度未満に抑え、1.5度未満を目指すとしている。そのためには、世界全体で30年までに温室効果ガスの排出量を45%削減することが必要とされる。しかし、エネルギーの使用を起源とする世界の排出量は二酸化炭素(CO2)換算で、323億トンに上り、米国、EUなどの主要国で減少しているものの、中国、インドなどの新興国で増加していることから世界全体で増加傾向にある。

 日本はどうかというと東日本大震災以降に増加し、13年度には過去最高を記録。14億トンもの温室効果ガスを排出した。

 原子力発電所が停止し、その分を化石燃料を使用する火力発電でまかなったことが原因だ。

 世界の主要国が地球温暖化防止に向け、温室効果ガスを削減すべく電源構成における化石燃料依存度の低減を進める中、日本は世界の流れに逆行し、火力発電の割合を高めた。過去最高の排出量を記録した13年度以降、徐々に低減してはいるものの、17年度の発電量のうち、約81%(震災前に比べ約15%増)を火力発電が占めている。

原子力で国際貢献を

 日本では排出量全体の約4割を電力部門が占めており、エネルギーを大量に消費する先進国の中でも、その割合が高い。削減目標の達成には何よりも電力部門の取り組みが重要となる。カギを握るのが、発電時にCO2を排出しない太陽光や風力といった再生可能エネルギー(再エネ)と原子力発電だ(図1)。国は削減目標を達成するため、30年度の電源構成について再エネを22~24%程度、原子力を20~22%程度とし、火力の比率を約56%まで引き下げる「エネルギーミックス」の実現を目指している(図2)。

 しかし、再エネは発電が天候に左右され、安定供給の面で不安があるほか、発電コストも割高で課題は多い。CO2を排出せず、安定的に電力を供給でき、発電コストも低い原子力発電は、資源の乏しい日本にとって欠かすことのできない重要な電源といえる。

 再エネの割合は17年度で約16%まで増えたが、原子力は約3%にとどまっている。地球温暖化防止で日本がリーダーシップを発揮し、国際社会に貢献していく上でも、原子力発電の比率をいかに引き上げていくのか、その道筋を明確に示すことが求められている。

温室効果ガス80%削減、原子力の長期活用必須

■専門家に聞く 

慶應義塾大学大学院政策 メディア研究科特任教授・遠藤典子氏

 日本は2030年度に温室効果ガスを26%削減するだけでなく、50年までに80%削減するという高い目標を閣議決定しており、国際公約としてその達成が求められている。日本の場合、温室効果ガスの約4割を電力部門が排出しており、電源構成をどうするかが極めて重要となる。

 現在の電源構成は、原子力発電の割合が大幅に低下し、化石燃料に大きく依存する状態となっている。30年の26%削減を達成するには原子力を20~22%程度、再生可能エネルギーを22~24%程度にする必要があるが、50年の80%削減を実現するには、原子力と再エネといった非化石燃料の割合をさらに高めていかなければならない。

 原子力を否定し再エネだけで気候変動問題に対処できると考えるのは、あまりにも楽観的すぎる。数値目標を達成するには、再エネと原子力を両軸として位置づける必要があり、世界の多くの環境NGOも原子力の有用性を認めている。

 電力中央研究所では、50年の80%削減には、省エネを深掘りし、再エネを最大限増やした上で、原子力発電所の運転期間を現在の40年から最大60年に延長したとしても既存設備だけでは足りず、原子炉の新増設が必要だと試算している。

 日本が主要国の責務として気候変動問題に貢献していくのであれば新増設は避けて通れない。技術の継承や新増設に必要な年月を考えると、もはや時間的な猶予はない。政府が腹を決め、動き出さないと、削減目標は水泡に帰すことになる。

【プロフィル】えんどう・のりこ 京都大学大学院エネルギー科学研究科博士課程修了。経済誌副編集長を経て、エネルギー政策などの研究事業に従事。「エネルギー・環境問題に関する女性有識者会議」を主催。著書に「原子力損害賠償制度の研究-東京電力福島原発事故からの考察」(岩波書店)。

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