NHKの新体制がスタートした。新たにトップとなった前田晃伸(てるのぶ)会長は1月27日の就任会見で、3月から試行を始めるテレビ番組のインターネットへの常時同時配信や、夏の東京五輪・パラリンピックへの抱負を語った。しかし、NHKには課題が山積している。ネット時代の受信料負担などについて明確なビジョンは見えず、将来像に疑念を示す声が後を絶たない。新会長が進める経営改革には、巨大組織の将来がかかっている。(森本昌彦)
強い決意語るも
今年10月からの値下げの影響で、令和2年度の受信料収入は前年度比58億円減の6974億円を見込む。それでも、売り上げ規模では民放キー局トップの2倍を優に超える。事業支出は前年度比76億円増の7354億円。マイナスとなる収支の差額は、元年度末で1041億円を見込む繰越金から補填(ほてん)した。
これだけの巨大組織ゆえに、総務省や民放は肥大化を懸念し、業務スリム化、受信料値下げ、ガバナンス(組織統治)強化の「三位一体改革」を求めている。
前田会長は就任会見の冒頭、「三位一体改革は当然、不断に取り組まなければならない課題だ」と強い決意を語った。
一方、質疑応答では、受信料値下げについて「下げればいいとか、そういうことではないと思う。全体を見ながら計画しないとやっていけなくなる」と発言。子会社の業務に関して一部で民業圧迫の指摘もあるとの質問に対しては、「そういうことはないと思っている。仮に民業圧迫して、そこの業務が成り立たなくなったなどの事実があったら、指摘をいただきたい。私はいつでも是正する」と反論した。
ユーザー懸念
三位一体改革は、NHKにとって悲願ともいえる常時同時配信実施の前提として求められたものだ。その実施に対しては、総務省や民放から厳しい目が向けられることになる。
こうしたなか、ネットユーザーの間では早くも反発がみられる。常時同時配信を含む新サービス「NHKプラス」は受信契約者向けのサービスだが、テレビを持たないネットユーザーに課金が新たに始まるかのような声があふれている。
ネット利用者からの受信料徴収の考えについて、NHK幹部は「全くない」と否定したが、前田会長は就任会見で「この先の環境変化を見てから考えるしかない。現時点でどうこうということではないと思う」と将来への含みを持たせた。
NHKはかつて、ネット視聴者から料金を徴収したいとの意向を示していた。その後、受信契約を結んでいる世帯向けの付加サービスとして行う方向に転じたが、ネットユーザーの不安は簡単に消えそうもない。
国民の理解必要
常時同時配信開始決定に至る議論では、NHKがネットにかける費用が主要な論点となり、NHKの「あるべき姿」が問われることは少なかった。
NHKが目指すネットも活用した「公共メディア」とは具体的に何を行うのか、その事業規模はどうあるべきなのか。NHKは自らの存在意義について、国民・視聴者の理解をしっかりと得る必要があったのではなかろうか。