新型A1に正面から歩み寄り、3分割エアインレットに目を止めてしまったからもう僕は、A1の走りにおおいに期待してしまった。そしてそれは驚くことに、ハードルを上げたまま乗り込んだ僕の期待を大幅に超えて裏切ってくれたのだ。
搭載するエンジンは直列4気筒ターボ。排気量は先代の1.4リッターから1.5リッターに拡大した新開発モノである。最高出力は150psというから、数値上は控え目だ。だが、ブースト圧が高めに設定されており、一瞬の間をおき、強烈なトルクゾーンへと突入するのである。いわゆるドッカンパワー特性でもある。
こんなにコンパクトなのに、贅沢な7速デュアルクラッチも装備されている。小気味よい変速についつい無駄を承知で上げ下げしてしまった。
それなりのスキルが必要
ハンドリングはとことん刺激的である。サスペンションはかなり硬めに設定されており、頼りなくロールすることはない。しかもハンドリングはキレッキレで、強引にコーナーを突き刺す。サスペンションジオメトリーが適切だから、けっこうな速度でコーナーに飛び込んだと思っても、タイヤが悲鳴をあげることは稀だ。それでも意をけっして攻め込んでも、ステアリング応答性はいつでもどこでも鋭いのである。
こいつの限界を探るのは簡単なことではない。それなりのドライビングスキルと、タイトロープの上を彷徨うような限界ドライブへの好奇心がなければ不可能だろう。そんな領域にある。それでいて、気筒休止機構も備わるという社会性も秘めている。受け継いだ3分割エアインレットはダテじゃない。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。