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「おうちで美術鑑賞」 休館相次ぐ美術館、異例のウェブ発信 (1/2ページ)

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、全国で美術館・博物館の臨時休館が相次ぐ中、広く観客に見てもらうはずだった展覧会の様子やおすすめの作品などを、ソーシャルメディアを通して発信する館が増えている。休校や休業などで自宅にこもる人も多いことから、「ありがたい」「癒される」といった好意的反応が目立つ。事態の収束が見えない中で、“おうちで美術鑑賞”の動きが広がっている。(黒沢綾子)

 「無観客展示」を生中継

 〈中止になった展覧会をネットで開催しませんか? 費用はドワンゴが負担します〉

 2月28日、動画配信サービス「ニコニコ動画(ニコ動)」を運営するドワンゴは、政府の大型イベント自粛要請を受けてやむを得ず休館を決めた全国の美術館・博物館へ、こう呼びかけた。

 「展示を維持しながらも現状を見てもらう機会がない状況にあること、また、オンライン上でなら多くの人が安心して楽しめるのではないかと企画した」と広報担当者。これまでもニコ動は「ニコニコ美術館(ニコ美)」という枠で展覧会紹介番組を生配信してきたが、休館中の展示を取り上げるのはもちろん異例。現在まで約40館の問い合わせがあり、3月10日の夜には第1弾として、最初に連絡したという江戸東京博物館(東京都墨田区、16日まで休館予定)から生配信が行われた。

 「目玉の一つ、虎徹(こてつ)ですね」「虎徹の薙刀(なぎなた)は現在2例しか確認されてなくて、その一つを今回展示しています」

 案内役を務める永青文庫副館長の橋本麻里さんと、江戸東京博物館学芸員の杉山哲司さんの軽妙なやりとりに、「すげーキレイ」「行きたい~!!!」などと視聴者から続々とコメントが書き込まれてゆく。

 この日紹介したのは特別展「江戸ものづくり列伝」(4月5日まで)。稀代の刀工、虎徹や蒔絵師(まきえし)の柴田是真(ぜしん)ら、江戸で花開いた精緻な職人仕事に光を当てた好企画だ。学芸員3人がかりで数年かけて準備してきただけに、「(休館は)残念。再開後はぜひ足を運んで、細部までじっくり見てほしい」と杉山さんは話す。

 番組は会期終了の4月5日まで、ニコ美で視聴できる。また3月12日には三菱一号館美術館の「画家が見たこども展」を、15日には大阪市立東洋陶磁美術館の「竹工芸名品展」を、いずれも午後7時から生中継する予定。今後も“無観客展示”を「できる限り紹介したい」(ドワンゴ担当者)という。

 研究員がYouTuberに?!

 動画共有サービス「YouTube」を通じて発信を続けているのは東京国立博物館(東京都台東区、16日まで休館予定)だ。桃の節句にあたる3日には、臨時休館のため1日しか公開できなかった特集展示「おひなさまと日本の人形」(22日まで)を約20分の解説動画にまとめてアップロードした。

 「こちらへどうぞ。すっごい大きいおひなさまでしょ? これは享保雛というものです」

 がらんとした展示室で、同館の三田覚之研究員が、すぐそこにいる観客に語りかけるように、ひな人形の歴史や特徴などを熱く解説してゆく。「今年は見ることができないのかと残念に思っていたのでとてもありがたいです」。視聴者からは、こんな感謝の気持ちを伝えるコメントも。

 広報活動の一環として同館は以前からYouTubeを活用してきたが、詳細な展示の解説動画を上げるのは初の試み。「急な休館に伴い、より多くの人に展示を届けたいと考えた。短期間で9千回超の再生回数になったのは経験のないこと」(広報室)と反響の大きさに驚く。

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