ライフ

細菌・ウイルスは何色? 一見奇妙きてれつな色に見えて実は真実かも

 中学の頃に後輩から「パラサイト・イヴ」というゲームを借り、その物語のキーワードであるミトコンドリア(細胞内の構造の一つ)という存在に惹(ひ)かれたことがきっかけとなって、私は生物系の分野に進みました。

 大学、大学院では培養細胞におけるミトコンドリアの形態を主に光学顕微鏡で観察してきました。その後研究の世界から離れ、しばらく実家のある鹿児島で高校生物を教えていましたが、ミクロな世界を自分の目でもっと観察したいという思いから研究の世界に戻り、現在はミクロより小さいナノレベルの世界を見ることのできる電子顕微鏡を用いて、さまざまな動物や組織の微小な構造を観察しています。

 風邪がはやるこの時期になると、ニュース映像で原因となる細菌やウイルスの電子顕微鏡像を目にすることがあります。白黒のものからカラフルなものまで色々あるわけですが、色がついているものを見ると、ふと「なぜこの色なんだろう」と感じることがあります。

 中学や高校の実習で使われる顕微鏡は光を介してものを観察するため光学顕微鏡と呼ばれます。光には可視光線が含まれているため得られる画像には色情報が含まれます。細菌やウイルスを観察するためにはより小さなものを見ることができる電子顕微鏡が用いられます。電子顕微鏡は文字通り電子を用いてものを観察しますが、電子には色情報が含まれていないため、得られる画像は基本的に白黒で示されます。

 図鑑でダイナミックに表現される昆虫や植物の微細構造などは、そのものの色が分かっているため着色されているようです。

 では、電子顕微鏡でしかその姿をとらえることができない細胞内の構造やウイルスなどは実際には何色なのでしょうか?ギュギュッと濃縮してみれば何色か分かるかもしれませんが、おそらくほとんどが明らかにされていないと思います。

 似たようなものですと、現代には化石としてしか情報が残されていない恐竜の皮膚の色があります。図鑑には色とりどり、模様もさまざまな恐竜の姿が紹介されていますが、実際は爬虫(はちゅう)類や鳥類を参考にした想像図のようです。

 つまり細菌やウイルスの色は、分かりやすく強調するために誰かが色を選んで表現したものということになります。私だったら、具合を悪くさせそうな印象を鉄サビのような色のまだら模様で表現するかな、と思います。

 決まった色がないのなら何とでも表現できるわけで、先入観があまりない小さな子供に、心のおもむくままに色を塗ってもらうと、それはそれで面白い世界が広がるような気がします。一見奇妙きてれつな色に見えて実は真実だったりするのかもしれません。

 尾上健太(おのうえ・けんた) 理化学研究所生命機能科学研究センター超微形態研究チーム・テクニカルスタッフ。久留米大大学院医学研究科修了後、高校非常勤講師、久留米大・先端イメージング研究センターを経て2019年度より現職。苦いコーヒーが好き。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus