ヘルスケア

あえてICUに運ばない“患者の選別” フランス救急現場の日本人医師語る

 フランスで新型コロナウイルスによる死者が2万人を超える中、パリ郊外にある総合病院の緊急外来で研修医として働く日本人医師、折口達志さん(25)に治療現場の様子を聞いた。

 --院内の様子は

 病院はほとんど新型コロナ患者が中心で、約200床をあてている。通常は15床の集中治療室(ICU)は30床に増やされた。入院患者の症状悪化に備え、ICUの空きを確保するようにしているが、2、3床が精いっぱい。私は1日10人ぐらい患者を診てきた。入院から1週間で大量の酸素が必要になり、ICUに運ばれるケースが多い。

 --院内の感染対策は

 新型コロナ患者は3月初め、爆発的に増えた。感染検査に時間がかかり、待合室で他の病気の患者にうつる恐れがあった。その後、院外にテントを設け、新型コロナの疑い患者を専門に受け付けるようにしたので、スムーズに対応できるようになった。

 医師は本来、1人の重症患者に対応する度にマスクや医療ガウンを着脱しなければならないが、物資不足なので、着替えは4時間に1度に限定された。医師や看護師にも感染者がいる。私の同僚も2、3人が患者になり、「いつかは、うつるかもしれない」という気持ちはある。正直、怖い。

 --「患者の選別」はあるか

 人工心肺装置については「延命できても外せなくなる」「体力が持たない」と医師が判断し、あえてICUに運ばないケースがある。80歳を超え、肺疾患やぜんそくなど重い持病のある患者で、最初から大変な量の酸素を必要とする場合だ。ICUの医師は日常的にこうした判断を迫られているが、新型コロナは医師に葛藤を迫ることが多い病気だ。

 --家族の反応は

 医師は対応に追われ、患者の家族と話し合う余裕がないために、治療方針を納得してもらうのが難しくなった。83歳で、脳梗塞や糖尿病などいくつも疾患を抱えた重体患者がいた。二酸化炭素を自力排出できず、脳に悪影響が出て「このままでは植物状態になる」と診断されたため、医師団が(死の苦痛をとるための)緩和ケアへの移行を決めたところ、家族が「最後まで手を尽してほしい」と反対し、双方にしこりが残ったこともあった。

 患者に死が迫った場合でも、防護服がないので看取ることができる家族は1人に限定されている。遺体は感染の危険があり、遺族は顔を見る機会もないまま、埋葬せねばならない。

 --医療態勢について

 新型コロナは治療薬がない。医師にできることは酸素吸入や人工心肺の装着で、苦しまないようにするだけだ。生存できるかどうかは患者次第。患者を助けられないことに無力感を抱くこともある。(パリ 聞き手・三井美奈)

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