上司からの提案でありがたかったのが、仕事の目標設定です。ほかの人と同じレべルにしました。「できなかったら下げたらいい。チャレンジしよう」と言ってくれたんです。そのころは、生きて社会復帰できた喜びが大きく、復職がゴールのように感じていました。でも、次の目標を設定できたことで、病人として戻るのではなく、健康な人と同じ状態のパフォーマンスを目指すということを意識できたんです。
《28年は肝臓に、29年には肝門部に転移が見つかった。手術と抗がん剤治療を経て復職した》
抗がん剤治療では副作用のつらい時期は休み、体調が良くなったら働きました。会社と接点を持ちながらの治療は楽じゃなかったけれど、働くことのモチベーションを保てました。
柔軟な対応を
30年の5月に復職して、今は経過観察中です。診断後も働き続けられたのは、会社に治療と両立するための制度や風土、文化がそろっていたからです。ワーキングマザーが多いので、急に早退したり休んだりすることに理解もありました。通院したり、体調が悪いときに出社を遅らせたりできる、フレキシビリティーは大切です。
ただ、周囲のがん患者と話すと、柔軟に対応してくれる会社はまだ少ないようです。でも、就労世代でがんになると、子供のためにも働き続けないといけない人が多い。私自身も2人の娘がいて、妻も働いていますが、共働きでライフプランを組んでいます。
がんに罹患(りかん)する人は、非就労世代が約7割を占めるため、医療者も含めて「働きながら治療できる」という選択肢はまだ知られていません。
今は、がんだけでなく介護を抱えた方などいろんな事情の人がいます。ルールを作るというよりも、お互いのことを知って、柔軟性のある環境をつくらなくてはいけないと考えています。
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■かなざわ・ゆうた 昭和57年生まれ。京都府出身。大学卒業後、人材派遣会社、ITベンチャーを経て、転職支援会社、ジェイエイシーリクルートメントに入社。26年に虫垂がんと診断される。その後、肝臓、肝門部に転移。手術と抗がん剤治療を行い、現在は経過観察中。