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高級食パンブームの仕掛け人 豊かな食文化体験で地域活性化 (1/3ページ)

  ベーカリープロデューサー・岸本拓也さん

 「考えた人すごいわ」「だきしめタイ」「わたし入籍します」-。これ、映画やドラマのタイトルではない。全て、高級食パン専門店の店名なのだ。いま、全国で増殖するこうしたパン店の仕掛け人が、ベーカリープロデューサーの岸本拓也さん(44)だ。店名と同様、1970年代の欧米のロックスターのようなサイケで奇抜なファッションも、インパクト十分。モノがなかなか売れない時代に、着実にヒットを生み出す斬新なアイデアの源泉はどこにあるのか。徹底的に聞いてみた。(聞き手 岡田敏一)

 「キスの約束しませんか」開店

 大阪府東大阪市の近鉄布施駅から南に徒歩約4分。プチロード広小路商店街に4月4日、「キスの約束しませんか」という“謎のお店”が開業した。岸本さんが経営する「ジャパン ベーカリー マーケティング」社がプロデュースを手掛けた145店舗目のパン店で、71店舗目の高級食パン専門店だ。毎朝、食パンを口にすることを食パンとのキスになぞらえ、毎日食べてほしいという願いを“約束”とし、大阪の主婦をドキドキさせるくらいおいしい食パンであることをイメージしたという。

 標準タイプが「ソフトキス」(2斤800円)、レーズン入りが「キッスな果実」(同980円)などと商品名もユニーク。小麦粉や国産バター、ジャージー牛の生乳から作った生クリームなど、原材料や製造法にもこだわり、品質も味わいもピカ一の商品に。開業日は、オープンの約1時間前から約200メートルの行列ができた。

 父は消防士、母は専業主婦という家庭で育った岸本さん。「小学生の頃から電車が好きで地図帳ばかり見ていました。知らない土地に行くのがすごく好きで、毎年、夏休みに父親に旅行に連れて行ってもらうのがうれしくて」というおとなしい子供だった。中学に入ると、世は90年代の第2次バンドブームの全盛期。「2年生の頃から音楽にのめりこみました。ユニコーンやブルーハーツをよく聴きましたね」。

 3年生のときに英国に数週間ホームステイした際は「スコットランドの楽器屋で出会ったフォークギターに惚(ほ)れ、無理して購入」。帰国後、地図帳を眺める日々が一転、ギターとバンド活動に明け暮れる日々に。高校では「運動部の連中より女性にモテたい」とバンド活動を活発化し、ファッションにも凝り始めた。「音楽とファッションは一体化していますから」。同時に生徒会長としても活躍したが、期せずして転機が訪れる。92年のスペイン・バルセロナ五輪だ。

 「テレビ中継で見たバルセロナの美しさに魅せられました。同じ頃、海外でも成功した大手小売りチェーン、ヤオハングループの和田一夫・元代表の本を読み、海外で働くとともに、日常に暮らす生活者を幸せにする仕事がしたいと…」。そんなわけで大学は関西外国語大学(大阪府枚方市)に。とりあえずバルセロナをめざしスペイン語学科に進んだ。音楽とファッションと旅。ここに食が加わるのは必然だった。

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