ヘルスケア

新型コロナ最前線で「基本の徹底」 院内感染ゼロの自衛隊中央病院

 新型コロナウイルスと最前線で対峙する医療機関は院内感染のリスクと常に隣り合わせだ。220人以上の患者を受け入れ、院内感染を起こしていない自衛隊中央病院(東京都世田谷区)が院内の一部を報道陣に公開した。そこで行われていたのは特殊な対策ではなく、スタッフ個々の防護とゾーニング(区域分け)という「基本の徹底」だった。

 「こちらで検温をお願いします」。病院の入り口の外に設置したテントで、スタッフが来院者の体温測定や問診を実施していた。患者、付き添いの家族、出入り業者ら1日300~500人の来院者は3月11日以降、必ずこの場所を通る。

 37・5度以上の発熱やせきなどの症状がある人は詳しい検査を受ける。検査室まではスタッフの誘導の下、パーテーションで区切られた専用通路とエレベーターを利用する。

 「8階西病棟」を訪ねると、二重扉を越えた床に緑色のテープで「HOT」と記されていた。その先は重症患者が入院するホットゾーン。感染防止のため中の空気が外に漏れ出さない陰圧構造で、医師や看護師らは防護衣を装着しなければ立ち入れない。

 看護官の防護衣着脱を見せてもらった。特に気を付けるのは脱ぐときだという。いくら防護していても脱ぐ際にウイルスが衣服や顔、手に付けば感染する可能性があるからだ。

 脱衣前に手袋を新しいものに交換した上で、全身鏡で確認しながらガウンと手袋の外側を触らないように同時に脱ぎ、ゴーグル、マスク、キャップの順で外す。1つ1つの動作の間に手指を消毒する。清家尚子看護師長(3等陸佐)は「防護衣の装着を定期的に教育し、防護を徹底している」と語る。

 大半の医療機関は個人防護やゾーニングを心掛けている。ただ、疲労が蓄積し、集中力と体力が低下しやすい環境で、隙なく行うのは簡単ではない。

 自衛隊中央病院は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の集団感染で、最多となる100人超の陽性患者を受け入れ、院内感染なく乗り切った。最大の要因は常日頃からのスタッフの練度の高さだ。

 同病院は生物兵器テロが発生した際には最前線で対応する役割を担う。平成26年の西アフリカのエボラ出血熱の流行後には、日本政府の「防衛省・自衛隊における感染症対応能力の向上を図る」との方針を受け、毎年の感染症患者の受け入れ訓練や、毎週月曜の防護衣着脱訓練を続けてきた。

 田村格・感染対処対応チーム長(1等海佐)は「スタッフには目に見えないウイルスへの不安や、不満、疲れがある。その中で普段やっていることを常に続けるため、不安や不満を気軽に口に出せる雰囲気づくりをしている」と明かす。

 医師や看護師は、医官(他国の軍医に相当)、看護官と呼ばれる自衛官でもある。上部泰秀院長は「われわれが一番大切にしているのは基本を守り続けること」と強調した。(田中一世)

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