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新しい生活様式は根付くか 「仕掛け」専門家が鋭いダメ出し

 新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言が首都圏と北海道で解除されて1週間となった1日、全国の行楽施設などで営業再開の動きが広がった。いずれも予防対策の徹底が前提だが、感染予防のためとして国が求める「新しい生活様式」は今後、社会にどの程度根付くのか。人の行動を自然に促す学問「仕掛学(しかけがく)」で知られる大阪大学大学院経済学研究科の松村真宏(なおひろ)教授は、「コロナ禍が新しいアイデアのチャンスになれば」と話す。

 彫刻「真実の口」を模したアルコール消毒器を大阪大学医学部付属病院(大阪府吹田市)の入り口に設置し、来院者が思わず手を入れる「仕掛け」だと話題になった松村教授。国が提示した新しい生活様式については、「そのまま定着はしないと思う」と見込む。

 国は(1)身体的距離の確保(2)マスク着用(3)手洗い-を基本に、〈誰とどこで会ったかをメモ〉〈食事は対面ではなく横並びで〉など、細かく例示。だが、松村教授は実践例の〈食事の際は料理に集中し、おしゃべりは控えめに〉は、「そんなことは誰もやりたいと思わない」と指摘。示された例は緊急避難的で極端な例もあるとし、「ちょうどいい落とし所を探していく形になる」と予想する。

 コンビニやスーパーなどでレジに並ぶ客の立ち位置を目印で示す対策は、「(目印に)立っていない人のルール破りが明らかになる。『社会規範の見える化』でもある」と分析。一方、あらゆる場所でのマスク着用や対人距離の確保は「どちらかといえば、(効果より)周囲の目を気にしているだけのように見える」とも。「メリットの実感が乏しかったりするものほど消えやすい」と指摘する。

 事業者や学校、施設などの現場では、さまざまな工夫が求められている。松村教授は「ああしなさい、こうしなさいと呼びかける強制ではなく、その方が楽しいと思ってもらえるようなアプローチが望ましい」とする。

 一方、定着を確信するのは、テレワークやオンライン授業などだ。「通勤・通学時間がなくなり、うまく時間を使えるようになった」。教員としては出張や研究の自由度が向上し、さらなる成果にもつながるとも期待する。

 予想もしなかったコロナ禍は、人々の行動を短期的に変え、新たな選択肢を突きつけているが、「次のアイデアが生まれるチャンスになれば」。数々の試行錯誤の先に、よい仕掛けの種が残っていると信じている。

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