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(178)非認知能力 高めて長生きを

 学力や知能指数といったものは認知能力と呼ばれます。一方で誠実さや忍耐力、自制心といった思考や態度は認知能力を補うもので、非認知能力と呼ばれます。これに恵まれている人は、抑鬱や孤独を感じることの少ないことが今までの研究で示されています。

 糖尿病で通院する60代後半の男性患者さんからは、いつも飄々(ひょうひょう)としていながらも、芯が強い印象を受けます。新型コロナウイルス感染症の拡大についても、「いつかはよくなるのだから、今は頑張って耐えるしかないよ」と動じるそぶりを見せません。自粛生活がストレスになっていないか尋ねると、このくらいの不自由はたいしたことではないと笑っていました。

 忍耐や自制を続けていると体に悪いのではないかと思う人もいるかもしれませんが、決してそうではなさそうです。こういった非認知能力が高齢者の寿命に与える影響を調べた研究結果が今年5月、米医学誌に発表されました。

 この研究は英国在住の52歳以上の男女約8千人を対象に、非認知能力の高低と死亡率の関係を約7年間観察したものです。ここでの非認知能力は、誠実性、忍耐力、情緒の安定性、楽観性、(自分の身に起こっていることの)制御-の5つで数値化しています。結果は、これらが総合して高いほど、死亡率は低くなっており、健康状態や社会経済的状況などの影響を考慮に入れてもなお有意なものでした。どれか一つではなく、すべてを併せ持つことで効果が発揮されていることも示されています。

 非認知能力が死亡率を下げる明確な理由は分かっていません。思考や態度が体内のホルモン分泌を変えるのかもしれませんし、健診をきちんと受けたり、体の変調があればすぐに受診したりするという行動につながるのかもしれません。いずれにしても、非認知能力を高めることで、健康的にも恵まれることが期待されます。コロナ禍で悲観的になったり、他者に寛容でいられなくなったりという人もいるのではないでしょうか。こういった機会が自分の考えや態度を見つめ直し、心を整えるきっかけになればと思います。

(しもじま内科クリニック院長 下島和弥)

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