朝晴れエッセー

満員電車で泣くおじさん・6月22日

 年を取って涙もろくなってしまった。

 テレビ番組で少しでも悲しい場面や感動的シーンがあると、もういけない。堪えようもなく泣けてくる。特に子供の健気(けなげ)な姿には弱い。うっかりすると、声を上げて号泣してしまう。

 夜中にひとりで缶ビールを握りしめながら泣いているならいいが、他人に涙を見られるのは困る。例えば、通勤電車の中だ。

 電車の中は読書の時間と決めているのだが、読んでいる小説に悲しい場面があると大変である。我慢しようにも大量の涙が溢(あふ)れてくる。通勤の満員電車のなかで、おじさんが本を読んで泣いている姿はかなり恥ずかしい。

 ある時、迂闊(うかつ)にもその手の小説を朝から読んでしまい、涙が頬を伝わってきた。周りに気づかれないように、あわてて目にゴミが入ったふりをしたが、鼻水まで流れてきてごまかしようがなくなった。

 そんなおじさんの危機を救ってくれたのは横に立っていた若い人だった。

 「どうぞ使ってください」とティッシュを差し出してくれ、さらに私の手元の本を指差して言った。

 「悲しい物語ですよね。私も泣いてしまいました」

 若者の思いやりに涙がまた溢れてきた。

 ところで、若いやつは本も読まずにスマホばかりいじっていると偏見を持っていたけれど、それから気をつけて周りをみると、本を読む若い人も少なからずいて、その光景にまた涙がこぼれそうになった。

佐々木晋(59) 北海道恵庭市

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