ビブリオエッセー

夏休み。少年たちが学んだこと 「夏の庭-The Friends-」湯本香樹実(新潮文庫)

 この小説と出合ったのは、中学生だった姪へ贈る本を探していたときだった。どうせなら夏休みに読書感想文を書けるようなものを、と思っていると、緑の表紙が目に入った。緑の野に立つ三人の少年の絵だ。題名は『夏の庭』。あらすじも興味深く、数々の賞を受賞した児童文学の名作と知り、よし、これにしようと決めた。

 このあと、ふと思い出し、図書館で同じ本を借りて読んでみたら私の方がすっかり気に入ってしまった。

 物語は、小学六年の少年たち三人組が、あることをきっかけに「死」について関心を持つところから始まる。そこで、もうすぐ死にそうだと噂されているひとり暮らしのおじいさんを交代で「観察」して、死ぬ瞬間を見てみようという話になった。ずいぶん不謹慎にも思えるが、少年たちは結構まじめなのだ。

 ところがおじいさんは見張られていることにすぐ気づく。「何やってんだよ、おまえら」。最初は邪険に、でも次第に打ち解け、世捨て人のような生活だったおじいさんが少年たちとのふれあいで元気を取り戻していく。このあたりから楽しくなる。少年たちはいろいろなことを教わり、経験する。やがておじいさんは自分の過去や戦地での経験にもふれる。衝撃の告白なのだが、少年たちはしっかり受け止め、その姿はとても生き生きとしてすがすがしい。

 夏休み前から秋までの短い物語だ。思春期の子供たちの死生観や社会問題など重いテーマもさりげなく語られている。なにより少年たちの好奇心がまぶしく、結末は少し切ない。

 生きていることの奇跡を改めて感じながら、味わった。さっそく自分の手もとに置いておきたくなった夏の一冊だ。

 堺市西区 北埜めぐみ 48

      

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