17日で本格施行から10年がたった改正臓器移植法。脳死下での臓器提供の要件が緩和され、国内で移植を希望する子供たちにも光明が差した。一方で提供数は法改正後も国際的に低水準で、待機期間は数年単位に及ぶ。「命のリレー」でつながった移植患者2人に経験談を、臓器提供者と移植希望者を結ぶ「日本臓器移植ネットワーク」の門田(もんでん)守人理事長には移植医療の現状と課題を語ってもらった。
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抱っこできる幸せ 娘はドナーと歩む
■心臓移植 大倉あいなちゃん(3)
「ママ」。抱っこを求めて差し出された手を引き寄せ、小さな体を持ち上げる。目線に無邪気な顔がやってきた。お互いに笑い合う瞬間がいとおしい。
石川県の大倉旭乃さん(26)は少し前まで、こんなささやかな幸せを想像することもできなかった。長女のあいなちゃん(3)の異変に気付いたのは生後6カ月ごろ。地元の医療機関では、せきなど風邪症状があるという診断を受けたものの、なかなか回復の兆しを見せない。
紹介された大学病院で検査を受け、重い心臓病である「拡張型心筋症」と告げられた。心臓はいつ急停止してもおかしくない状況で、集中治療室(ICU)に入ったが、容体は急変を繰り返した。「このままではもたない」。別の病院に転院し、補助人工心臓を着けることになった。
無事装着を終え、体が少し楽になったのだろう。柔らかな表情でいることが増え、食事もよく食べてくれるようになった。だが元気になったように見えても、体は“爆弾”を抱えたままだった。
感染症や血栓形成などへの警戒が必要で、チューブにつながれ、ベッドに横たわったまま。2度の脳出血も経験した。常に死の恐怖と隣り合わせにあった。
命の灯を未来につなぐには、心臓移植にかけるしかなかった。だが、国内で移植を待つ小児患者は多く、「3、4年の待機」も視野に入れるよう説明を受けた。
長期戦を覚悟していたところ、国内で移植がかなうと知らされた。手術は成功。その時の気持ちをどう表現していいか、今も分からない。救われた命の先には、深い悲しみの中で、命を救う決断をしてくれた人たちがいる。
よく笑うようになった娘を見て、思った。「あいなは、ドナーさんと一緒に生きている。そしてこれからも、一緒に歩いていく」
移植後は日に日に元気になっていった。寝たきりだった時間を取り戻すかのように、抱っこをよくせがむ。背は伸び、顔もふっくらとしてきた。歩こうとする意欲は旺盛で、発する語彙も増えている。幼稚園で他の子供たちと遊べるようになる日が待ち遠しい。
「これからきっと、いろいろなことがあると思う。でも、どんな状況にあっても、自分を貫ける強い子に育ってほしい。そして何より、病気と闘い、助けられたからこそ、他人を思いやれる優しい心を持った大人になってもらいたい」。娘の未来へ、感謝と願いを込めている。(三宅陽子)