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若者の心をつかみ生き残り模索する渋谷最古のミニシアター

 【TOKYOまち・ひと物語】「ユーロスペース」北條誠人支配人

 若者が集まる流行の発信地・渋谷は、かつて「映画の街」でもあった。時代の先端を担おうとする若者らが集い、個性的なファッションや音楽などのサブカルチャーが育まれ、ミニシアターも多様な文化の一翼を担ってきた。新型コロナウイルスの感染拡大で映画業界が大打撃を受ける今、渋谷最古のミニシアター「ユーロスペース」は、業界の垣根を越えた連携や若者向けの作品などで若年層の心をつかみ、将来への生き残りの道を模索している。(王美慧、写真も)

 JR渋谷駅から徒歩約10分。渋谷区円山町のユーロスペースは、雑居ビルなどが密集する繁華街の一角にある。昭和57年に同区桜丘町で渋谷初のミニシアターとして開館し、平成18年に移転。建物の前面に映画の巨大ポスターが貼られるなど、斬新な外観が人目を引いている。館内には開館当初から上映した作品のチラシが飾られ、38年にわたって映画ファンに愛され続けてきた軌跡が見て取れる。

 コロナでシニア離れ

 同館は、シアター1(92席)、2(145席)に分かれ、ロシアなどの映画やインディペンデント作品、ドキュメンタリー分野などを扱い、幅広い客層の心をつかんできた。

 時代とともに、ミニシアターを取り巻く状況は激変し、若者離れやシニア産業化が進む中、支配人の北條誠人さん(58)は「この業界は新たな困難に直面している」と指摘する。言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染拡大だ。

 緊急事態宣言で休業を余儀なくされ、同館も約2カ月間休業した。感染防止策を徹底して営業を再開したが、客の戻りは鈍い。ミニシアター業界のビジネスの主軸であるシニア世代は感染を恐れて、映画館から足が遠のいているのだ。北條さんは「今できることは、若い世代が見る映画を中心に上映するスタイルに転換するか、コロナ禍が収束するまで辛抱するか」という。

 同館は上映する作品をシニア向けに絞らず、若者向けの映画も積極的に上映し、比較的若年層を取り込んできたが、「客数は通常の75%ほど。ほぼ20~30代で、シニア世代の姿はない」。これまで以上に、若者に伝わりやすい宣伝や、若年層と映画について議論するなどして、「若者の目線や考え方などを共有し、生き残り策を模索する必要がある」と話す。

 業界の垣根を越え

 一方、コロナ禍を乗り越えようと、業界同士が連携する動きも始まりつつある。ミニシアターやライブハウス、演劇の3つの業界が手を取り合い、小規模な文化施設や団体の支援を国に求めているのだ。

 これまで業界同士で横のつながりはなかったが、「コロナ禍を契機に互いの長所と短所を共有し、補っていければ」と北條さん。

 また、若い映画人の発案で、映画館の経営回復までの間、インターネット上で展開する映画館「仮設の映画館」の取り組みも広がった。「どんな方法がミニシアターにとって正解かはわからない。やはり、映画は映画館で見てもらいたいから」と、北條さんは1日も早い感染の収束を願っている。

 渋谷周辺の映画地図はどう変わっていくのか。未曽有の荒波の中での再スタートとなった。

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