宇宙開発のボラティリティ

なぜいま火星なのか 探査機「1トン」を送るための「531トン」 (2/2ページ)

鈴木喜生
鈴木喜生

 ちなみに初速度を稼ぐために地球の自転速度も利用されます。つまり、地球は東に向かって秒速463m(赤道上)で自転しているので、それも初速度に上乗せするためにロケットは基本的に東に向かって打ち上げられるのです。

 火星に向かうには、秒速11.2km以上の初速度が必要

 無事に宇宙に到達した宇宙機は第一段ロケットを切り離したあと、いったん地球を周回する軌道に投入され、火星に向かうロケット噴射の準備に入ります。この一服しながら地球を周回する軌道のことをとくに「パーキング軌道」「待機軌道」と呼びます。以下で、その後のシークエンスをたどります。

  • 【5】第二段ロケットが7分間噴射され、高度をさらに上げつつ、地球を周回する軌道(パーキング軌道)にとどまる
  • 【6】打ち上げから約45分後、第二段ロケットも切り離され、地球周回軌道を離脱、火星へ向かう

 地球を周回する軌道に乗るには第一宇宙速度(秒速7.9km)という初速度が必要ですが、その重量も振りきって地球から完全に離れるためには第二宇宙速度(秒速11.2km)まで速度を上げる必要があります。シークエンスの【5】で第二段ロケットが点火されるのはそのためです。これによって宇宙機は地球を離れ、今度は太陽を中心に周る「太陽周回軌道」に入ります。その噴射のタイミングと時間を厳密に計算して狙いをさだめれば、あとは放っておいても宇宙機は火星に到達することになります(実際には数回の軌道修正を実施しながら)。

 火星に初めて到達したのは1965年7月14日

 さて、月面にヒトが立った瞬間のことは世界中の人々が記憶していますが(1969年7月20日)、では、初めて人工物が火星に到達したのはいつかご存知でしょうか? それは1965年のことで、NASAの「マリナー4号」が実現しました。マリナー4号は火星の脇を通りすぎただけでしたが、その後、1971年には「マリナー9号」が火星周回軌道に乗り、そのわずか13日後には旧ソ連の「マルス2号」が着陸機の降下に失敗して地表に激突。これが火星地表に到達した最初の人工物となりました。なんとその5日後には「マルス3号」が着陸機の降下を成功させ、火星地表からデータを史上初めて送信したのです。1960年代の米ソは月だけでなく、火星探査においても熾烈な争いをしていたことがわかります。

火星到達の歴史

【NASA「マリナー4号」】

1965年7月14日、史上はじめて火星に到達し、近傍を通過(フライバイ)

【NASA「マリナー9号」】

1971年11月14日、史上はじめて火星の周回軌道投入に成功。表面撮影、大気分析を実施

【旧ソ連「マルス2号」】

1971年11月27日、ランダーが火星表面に激突

【旧ソ連「マルス3号」】

1971年12月2日、ランダーが火星地表への軟着陸に成功。20秒間データを送信

 次回は、火星探査機がなんのために火星に送られるのか、なにを調査しているかをご紹介します。

【NASAが火星への打ち上げをライブ配信】

 NASAは、パーセヴェランスを載せて火星へ向かうロケットの打ち上げをライブ配信します。

エイ出版社の現役編集長。宇宙、科学技術、第二次大戦機、マクロ経済学などのムックや書籍をプロデュースしつつ自らも執筆。趣味は人工衛星観測。これまで手掛けた出版物に『これからはじまる宇宙プロジェクト』『これからはじまる科学技術プロジェクト』『零戦五二型 レストアの真実と全記録』『栄発動機取扱説明書 完全復刻版』『コロナショック後の株と世界経済の教科書』(すべてエイ出版社)など。

【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。

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