ヘルスケア

新型コロナワクチンへの過度な期待は禁物 専門家が警鐘

 欧米企業と交渉 年明け接種開始も視野

 世界中で開発が進み、実用化への期待が高まる新型コロナウイルス感染症のワクチン。日本政府は全国民への接種も想定して企業の開発支援や確保に向けた交渉を急ぐ。ただ、実現間近とされるワクチンは実用化にこぎつけた事例がない新技術を使っており、有効性や安全性は未知数。専門家は理想的なワクチンができる保証はないとして、過度な期待を戒める。

 世界保健機関(WHO)が公表したリストによると、ワクチンは169の開発計画が進む。うち30は人に投与して有効性や安全性を調べる臨床試験(治験)が始まっている。開発手法はさまざまだが、ウイルスのDNAなど遺伝情報を利用して免疫を導く「核酸ワクチン」は進展が速い。米製薬大手ファイザーや米モデルナが代表例だ。年内の供給開始を目指す企業もある。

 日本国内では、国立感染症研究所や東京大医科学研究所、大阪大などが企業と連携して開発を進め、一部は治験を開始。政府は2020年度補正予算で計600億円を充てて開発を後押しする。全国民が接種することも想定して、日本政府は複数の欧米企業とワクチン確保に向けた交渉に注力する。これまで2社と供給について基本合意し、年明けからの接種開始も視野に入れる。

 効果とリスク認知を

 ただ、核酸ワクチンなどは新しい技術で、病原性をなくしたウイルスを利用した従来の不活化ワクチンとは違い、実用化の実績がまだない。海外企業による複数の治験では「ウイルスに対抗する抗体ができた」との報告はあるが、発症や重症化を防ぐ効果や免疫の持続期間は不明だ。副作用が高い頻度で報告された例もある。

 ワクチンに対する国民の期待は高い。8月21日に開かれた政府の新型コロナの対策分科会では効果やリスクについて、国民にどう分かってもらうかが最大の論点となった。

 メンバーの一人は「感染そのものを予防する効果は証明が難しい」と強調。発症や重症化を防ぐ効果に着目しながらも「ワクチンを打ったのに感染したと訴え、そうした情報が広まって打たない人が出てくると良くない」と懸念する。

 安全性の担保は

 最重要なはずの安全性を軽んじる動きも出てきている。ロシアのプーチン大統領が8月11日「世界で初めて」承認したと発表したワクチンは、治験の最終段階である第3相試験が終わっていなかったが、治験には娘も参加したと安全性をアピール。娘は接種後、38度の熱が出たという。

 米メディアによると、中国では開発中のワクチンの使用を、軍に限り先行して承認。だが、治験段階で既に副作用が多く、4~5割が発熱や疲労感、頭痛を訴えた。

 ワクチン開発を手掛ける東大医科研の石井健教授は「世界中で巨費を投じて研究開発が進められているが、いまだ多くの問題をはらんでいる。有効性や安全性など全てのことが予測困難だ」と慎重だ。開発までは少なくとも5年ほどかかると見込んで備える必要があるとし、「急げば急ぐほど安全性の担保はおろそかになる」と訴える。

 分科会の尾身茂会長は8月21日の記者会見で「理想的なワクチンが開発される保証はない。安全性、有効性がどこまでなら使えるか、どこまでなら使えないか、許容範囲の議論も必要になるだろう」と述べ、効果やリスクについての細やかな情報発信が重要だとした。

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