子供のころに転げまわった「クローバーの原っぱ」を夢見て、土地を借りてしまった私だった。
が、梅雨明けの強(きょう)靭(じん)な雑草との戦いで惨敗してしまった。
本当は10年前に地方移住すべきだったのだと、ついに気づいた先日のことだ。
朝起きて「原っぱ」に行ったら、学さんがいた。
なんと軽トラックに材木を積んできて、ガーデンハウスを建て始めていたのだ。
学さんは、ログハウスを造るプロ。噂ではカナダで修業したとか、アメリカの草原を家族でキャンピングカーで回ったとか…。
ともかく、腕のいい彼にデザインを頼んだのは数カ月前のこと。忙しい彼からは「秋までには造るよ」と言われていた。
「それでいい」と言った私なので、今さらせかしにくい。でも、結局はワアワア言い募ったので、彼がついに動いたらしい。
おかげで私の中でくすぶり始めていた挫折感が、いきなり吹き飛んでしまった。
クローバーの原っぱは、もう雑草の原っぱでいい、ここに素(す)敵(てき)なガーデンハウスさえあれば、と。
トールペイント仲間の彼の妻から、「あの人は、仕事に集中しているときに近づくと怖いよ」と言われていたので、遠くから愛想よく挨拶したら、この朝の彼のご機嫌は上々のようだった。
依頼した六畳ほどの小さなハウスを、私は週末だけの「ミニミニ原っぱギャラリー」と名付け、そのオーナーとして今後、長く運営を続けていこうと思っている。
そう、ギャラリーオーナーも、私がやってみたかった仕事の一つ。
オーナーになれば、自分好みのアート空間の一角で、原稿をシコシコ書いてさえいればいい。
客が来ても来なくても、きっと楽しい。心が満たされるはずだ。
そんなことを思う私の前で、学さんが言った。
「ここは風が通って、気持ちいい、場所をここにして正解」
さらに彼から提案もされた。
「原っぱに干し草の椅子とかテーブルを置いて、夜には星を見ながらワインを飲んだらいいんじゃないの?」だって。
確かに、そうすれば、干し草の甘い香りに包まれて、「原っぱミニミニバー」の女主人にもなれるかもしれない。
余興にハウス前の低い仕切り壁を「蹴(け)込(こ)み」にして、ミニミニ人形劇ショーを1人でやったりして。
やっぱり、「原っぱ」は、私の妄想の生まれ続ける泉のごとき場所のようだった。(ノンフィクション作家 久田恵)