家族がいてもいなくても

(656)アートと星空、人形劇も

 子供のころに転げまわった「クローバーの原っぱ」を夢見て、土地を借りてしまった私だった。

 が、梅雨明けの強(きょう)靭(じん)な雑草との戦いで惨敗してしまった。

 本当は10年前に地方移住すべきだったのだと、ついに気づいた先日のことだ。

 朝起きて「原っぱ」に行ったら、学さんがいた。

 なんと軽トラックに材木を積んできて、ガーデンハウスを建て始めていたのだ。

 学さんは、ログハウスを造るプロ。噂ではカナダで修業したとか、アメリカの草原を家族でキャンピングカーで回ったとか…。

 ともかく、腕のいい彼にデザインを頼んだのは数カ月前のこと。忙しい彼からは「秋までには造るよ」と言われていた。

 「それでいい」と言った私なので、今さらせかしにくい。でも、結局はワアワア言い募ったので、彼がついに動いたらしい。

 おかげで私の中でくすぶり始めていた挫折感が、いきなり吹き飛んでしまった。

 クローバーの原っぱは、もう雑草の原っぱでいい、ここに素(す)敵(てき)なガーデンハウスさえあれば、と。

 トールペイント仲間の彼の妻から、「あの人は、仕事に集中しているときに近づくと怖いよ」と言われていたので、遠くから愛想よく挨拶したら、この朝の彼のご機嫌は上々のようだった。

 依頼した六畳ほどの小さなハウスを、私は週末だけの「ミニミニ原っぱギャラリー」と名付け、そのオーナーとして今後、長く運営を続けていこうと思っている。

 そう、ギャラリーオーナーも、私がやってみたかった仕事の一つ。

 オーナーになれば、自分好みのアート空間の一角で、原稿をシコシコ書いてさえいればいい。

 客が来ても来なくても、きっと楽しい。心が満たされるはずだ。

 そんなことを思う私の前で、学さんが言った。

 「ここは風が通って、気持ちいい、場所をここにして正解」

 さらに彼から提案もされた。

 「原っぱに干し草の椅子とかテーブルを置いて、夜には星を見ながらワインを飲んだらいいんじゃないの?」だって。

 確かに、そうすれば、干し草の甘い香りに包まれて、「原っぱミニミニバー」の女主人にもなれるかもしれない。

 余興にハウス前の低い仕切り壁を「蹴(け)込(こ)み」にして、ミニミニ人形劇ショーを1人でやったりして。

 やっぱり、「原っぱ」は、私の妄想の生まれ続ける泉のごとき場所のようだった。(ノンフィクション作家 久田恵)

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