「新型コロナウイルスや災害などで世界が大きく動く中、大学の役割が強く意識されるようになった」
湊長博・京都大総長(69)。総長に就任し、京大が誇る「自由の学風」の伝統を受け継ぎながら、目まぐるしく変化する社会の中で存在意義を発揮する必要性を訴えた。
富山県出身で、京大医学部を卒業後、留学先の米国で「がん免疫」の研究を始めた。帰国後、自治医大で内科医として外来勤務する傍ら、新たなリンパ球を発見したのを機に本庶佑・京大特別教授との共同研究が開始。免疫反応のブレーキ役となるタンパク質「PD-1」ががん治療につながる可能性を突き止め、本庶氏のノーベル医学・生理学賞につながった。世界中のがん患者に希望を与えた研究に貢献し、「がん治療の概念を変えたサイエンスのブレークスルー(飛躍的な進歩)。新たな景色が見えた」と振り返る。
自身の経験を基に、「大学は知的な公共インフラの基礎」と表現し、研究重視の姿勢を強調する。早期に社会に応用ができる成果が求められがちだが、「研究の中には、必ず5、10年後に意味を見いだすものがある」と多様な研究環境の維持の重要性を訴える。
一方、副学長時代に実施した学内調査で、教員がさまざまな事務作業に追われて研究に費やす時間が少なくなっている現状が明らかになった。やりたい研究に好きなだけ時間を費やせる大学に-。「研究者が最大限ポテンシャルを発揮できる環境をつくる」と意気込んでいる。(桑村大)