教育・子育て

一瞬で情報共有も可能、端末配布で教育はどう変わる 最大の懸念は

 【深層リポート】

 学校教育のデジタル化を進める国の「GIGAスクール構想」の取り組みが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて一気に加速した。全国の大半の公立小中学校で、今年度中に全児童生徒へパソコンあるいはタブレット端末が1人1台配布される見通しだ。気になるのは、導入によって学校教育がどう変わるか。全国的にも早い段階からタブレットを使った学習を導入してきた埼玉県飯能市を取材した。

 早い段階から準備

 埼玉県教育委員会によると、県内の全63市町村の公立校で、年度末までに児童生徒へ端末を配布する見込みだ。このうち、県内で唯一、配布を完了させたのが飯能市。8月末までに市立小中学校19校の全児童生徒と教職員約5千人に届けた。

 多くの自治体が主に予算上の理由から全員配布に二の足を踏む中、早い段階で準備してきたことが早期の配布完了につながった。というのも、先行する市立学校で「成果」があったからだ。

 一瞬で情報共有

 小中一貫校として昨年4月に開校した市立奥武蔵創造学園(奥武蔵小と奥武蔵中)。昨年9月から約120人の児童生徒が学習にタブレット端末を使っている。

 授業中、教員が教室の子供たちに問いかけると、多くの生徒がタブレットに指先を動かし入力を始める。「みんなの前で手を挙げづらい子もタブレットなら答えられる。(教室内の)コミュニケーションツールになっている」(同市教育センター)という。

 入力された子供の解答を教室の他の児童生徒に紹介する際も、板書はしない。教員が個々のタブレットにデータを送り表示させる。一瞬で情報共有できるため、授業時間のロスがなくなった。

 タブレットにはカメラ機能が付いている。子供たちは授業中に教員の黒板を撮影する。板書をノートに書き写すことが苦手だった子は、授業に集中できるようになったという。

 教員にとってのメリットもある。これまで記憶頼みだった体育や音楽などで、子供たちの習熟状況をタブレットの録画で確認できるようになったのだ。

 感染対策のため登校を制限していた今年5、6月、同校はウェブ会議アプリ「ZOOM」を活用して週3、4日程度のオンライン授業を実施した。端末が全員に行き渡っていたため、スムーズに実施できたという。

 市は、新型コロナの出口が見えない中、休校せざるを得ない場合に備えて遠隔授業の活用も想定している。

 試行錯誤続く

 もちろん課題もある。最大の懸念は学習の目的から外れた不適切なタブレットの利用だ。今のところ有害サイトへのアクセスを制限する「フィルタリングソフト」を駆使して対策に当たることにしている。

 教える側のスキルのばらつきも否めない。機材に不具合が生じれば授業が中断してしまう。「(同校では)導入して最初の3カ月は『タブレットを使うための授業』になっていたが、少しずつ円滑に使えるようになってきた」と同センター。

 現場に否定的な意見もある中で、より効果的な活用に向けて試行錯誤が続く。

【GIGAスクール構想】 令和元年度から国が進める学校教育のデジタル化政策。「GIGA」は、Global and Innovation Gateway for Allの略。小中学校の児童生徒への1人1台の学習者用コンピューターの配布と校内LANの整備などを通して、学習意欲の向上や多様な学習を目指す。新型コロナの感染拡大をきっかけに文部科学省は令和5年度までに配備完了だった計画を前倒しし、本年度中の実現を目指している。

【記者の独り言】 デジタル庁創設構想をはじめ、デジタル化の議論が花盛りだ。「GIGAスクール構想」を耳にすることはあっても、具体的に何が変わるのかイメージしづらかった。取材で特に印象的だったのは、飯能市教委担当者の「まずはやらないことにはどうしようもない」という一言だ。まだまだハードルは高いが、豊かな可能性が隠されているように思う。教育現場の新たな挑戦を見つめていきたい。(内田優作)

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