まさかの法的トラブル処方箋

結婚が破綻したとき…そこに潜む法律の“罠” 子供の連れ去り (2/2ページ)

上野晃
上野晃

「子連れ別居」という常識を疑うこと

 「子どもの権利条約」というのがあります。1989年に国連で採択され、1990年に発効、日本は、1994年に批准しています。この「子どもの権利条約」の第9条1項には、こんな規定があります。「締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する」。これが連れ去り禁止の法的な根拠です。別居などやむを得ない場合であっても、親と子が離れ離れになるためには、きちんと裁判所等で決められてからでなければなりません。「子どもの権利条約」はそのことを明記しています。

 この規定は、一貫して子供目線です。つまり、両親が離婚しようが、子供にとって親は親なのです。不条理に引き離される理由などないのです。両親が仲違いしようとも、お父さんお母さん両方の愛情に育まれながら育つことを保障してあげましょう。これが「子どもの権利条約」の意図するところです。この「子どもの権利条約」の理念が、日本では反映されていません。「子連れ別居」の名の下に。

 夫婦関係が悪くなった時、日本では、子連れ別居は非常によくある出来事です。夫が仕事に行っている間に、妻が子供を連れて実家に帰ってしまうなんて、半径3メートル以内に一例くらいはあるんじゃないかというくらい頻繁に耳にします。私は弁護士という仕事柄、こうした相談を多く耳にしますが、仕事から一歩外に出ても、こうした話はたくさん聞こえてきます。夫婦仲が非常に悪くなっていたとはいえ、突然こんな仕打ち、あんまりじゃないかと思うのですが、この子連れ別居は、いわば日本の常識となっています。

 しかし、この常識、このままで本当に良いのでしょうか。EU議会で非難決議がなされてもなお、やかましい! ここは日本だ! と言って拒絶すればよい問題なのでしょうか。「子どもの権利条約」違反だと指摘されても、だったらそんなもの脱退すればいいじゃん! なんて開き直ってしまえばよいのでしょうか。私は違うと思います。日本人は、「常識」に弱いです。「常識」と言われると、それを拒否することは「非常識」であり、社会の枠から外れてしまうのではという不安を覚えるのでしょうか。その気持ちも分からなくもないですが、時に常識を疑うということがとても重要になることもあります。特にある常識が、非常に長い時間通用している場合、その常識が、今の社会の他の常識と並べて、果たして説得力を維持できているのか、あるいは実はすでにかつての説得力を失っているのではないか、そういった検証が必要です。

 そもそもこの子連れ別居という名の常識、一体どこからやってきてどうして常識として日本全体に認められるようになったのでしょう? 実は、そこには親権争いをめぐる男女の歴史的なドラマが潜んでいるのです。

 次回のコラムでは、この点について、より突っ込んで検証してみたいと思います。

神奈川県出身。早稲田大学卒。2007年に弁護士登録。弁護士法人日本橋さくら法律事務所代表弁護士。夫婦の別れを親子の別れとさせてはならないとの思いから離別親子の交流促進に取り組む。賃貸不動産オーナー対象のセミナー講師を務めるほか、共著に「離婚と面会交流」(金剛出版)、「弁護士からの提言債権法改正を考える」(第一法規)、監修として「いちばんわかりやすい相続・贈与の本」(成美堂出版)。那須塩原市子どもの権利委員会委員。

【まさかの法的トラブル処方箋】は急な遺産相続や不動産トラブル、片方の親がもう片方の親から子を引き離す子供の「連れ去り別居」など、誰の身にも起こり得る身近な問題を解決するにはどうしたらよいのか。法律のプロである弁護士が分かりやすく解説するコラムです。アーカイブはこちら

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