新型コロナウイルスによって私たちの暮らしは大きく変容した。半年前の緊急事態宣言下では多くの人がステイホームを余儀なくされ、その後も感染防止のための新たな生活様式が求められている。一方で、コロナ禍は私たちの暮らしが多くの人たちによって支えられていることに気づかせてくれた。社会生活に不可欠な仕事に従事する「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる人たちだ。目立たない存在だが、暮らしに欠かせない電気を届ける電力業界もその一つ。お笑いタレントでテレビの司会者、俳優など幅広い分野で活躍する山里亮太さんに、コロナ禍の暮らしを支える人たちへエールをもらった。
コロナ禍で働くエッセンシャルワーカーにエール
インタビュー 山里亮太さん
周りのものすべてが大切
--4月の緊急事態宣言の発令をどのように受け止めましたか
「最初は、そんなに長く続かない、何かハプニングのように感じていました。それが、自分の仕事がどんどん休みになって、お笑いのライブも中止になって、不安の種がどんどんまかれていった。これもできなくなる、あれもできなくなる。当たり前のことが当たり前じゃなくなるというのを初めて体験して、怖いと感じると同時に、当たり前ってすごいことだったんだと気づかされました」
--最も不安に思ったことは
「出させていただいている番組の収録がなくなったり、ロケができなくなったりするのも辛かったですが、ライフワークにしているライブができなくなったことも不安を大きくしましたね。一時期、人が集まるライブが『悪』みたいに言われたのは、辛かったです」
--どんなふうに不安と向き合いましたか
「時間があるぞ、ライブのために準備する時間が増えたぞ、と思うことに決めました。『いつになったらできるんだろう』と不安に思うことに時間を使ってももったいない。次のライブがあると、ある意味で現実逃避をして不安に押しつぶされないようにしていました。ライブは時間をかければかけるほど良いものになるので、次のライブは今までで一番時間をもらえたのだから、今までで一番のライブになるぞと」
--今までで一番のライブは実現したのでしょうか
「今はお客さんの人数を制限してライブを再開しています。時間をかけて準備したことが実を結んでいるのもありますが、普通にライブができることが、いかに特別なことだったのかと感じています。普通のことが実は特別なことだったんだと。これまでも舞台の一分一秒、お客さんの一人一人を、とても大切に思ってきましたが、再開した最初のライブは自分の周りにあるすべてのものが、本当に大切なんだと思える時間になりました。やっぱりお客さんの顔を見たときは、泣きそうになりましたもん。来てくれて本当にありがとうって」
--コロナで人とのつながりは大きく変わりました
「今ようやく人と会えるようになって、人とのつながりも特別なことだったんだと思いました。オンラインで漫才をしたり、リモート飲み会をやったりしましたが、実際に人と会って話すときの空気感というのがいかに大切かもわかりました。同じ空間にいて話をすることに勝るものはない。特に漫才はお客さんが目の前にいて、センターマイクがあって、相方がいないとダメ。改めてライブの楽しさを知ることができました」
暮らし支える人の存在に気づいた
--コロナ禍は私たちの暮らしが多くの人に支えられていることに気づく機会にもなったと思います
「緊急事態宣言のとき、僕たちは家にいることでしか協力できませんでした。自分たちが家にいて、ちゃんと暮らせていたのは、ある意味で非常に危険な状況でも自宅待機をせずに、その環境をつくってくれる人がいたからなんだと、今になって思います。家でテレビを見て、ゲームをして、リモートでネタ合わせをして、じゃあ、その電気はいったい誰が届けてくれたのか。全員が自宅待機したら誰も生活できなくなる。自分たちが暮らせる環境をつくってくれている人たちへの感謝を意外とみんな忘れていたのではないでしょうか。縁の下の力持ちとして、暮らしを支えてくれる人がいるから、みんなで協力してコロナと闘うことができるんだと気づきました」
--電気がないと暮らしは成り立ちません
「コロナで、当たり前のことがどんどん当たり前でなくなっていくなかで、当たり前のように電気は届いていました。コロナ禍の異常事態の中で、安定して電気を供給するというのはやっぱりすごいことなのだと思います。ただ、当たり前すぎて電気が届かない暮らしを想像できず、感謝を忘れてしまっていた」
--電気のようなライフラインを支える人たちは縁の下の力持ちで目立たない存在です
「一度電気のない暮らしを想像してみればいいのかもしれません。すべてのことを当たり前じゃないんだと思って暮らしてみると、そのありがたさがわかるというか、とてつもない感謝がわいてくる。電気のように当たり前のことに対する感謝はいっぱいあるはず。そうした人に感謝することで、自分の心も繊細になっていき、人を思いやれるようになる気がします」
ライブできるのも皆さんのおかげ
--コロナはいまだ収束の兆しは見えません。多くの人の不安に思うなか、お笑いの力は大きいと思います
「ライブやテレビに出て、『つらいときに笑えて元気になりました』とか言われると、本当にうれしくて、自分の存在意義みたいなものを改めて感じました。お笑いは決して不要なものではないんだと。僕たちができることってそんなにないかもしれないけど、お笑いで人に楽しんでもらって、人を元気にするというこの仕事の意味がよく分かったような気がしています」
--お笑いで元気にすることがコロナ禍で頑張っている人への恩返しになる
「こうしてライブができるようになったのも、医療従事者の方々が大変な思いをして医療体制を整えてくれたり、電力会社が電気をしっかりと届けてくれたりと、本当に尽力して、その環境をつくってくれたおかげだと思っています。その上で、いろいろな人が頑張って徐々にだけど、いろいろなことができるようになってきた。メディアにはそうした頑張りをもっともっと伝えてほしい」
--最後にエッセンシャルワーカーの皆さんにエールをお願いします
「今回のインタビューを通して暮らしを支えてくれる人たちの存在に気づき、感謝と恩返しについて考えることができて、とてもいい機会になりました。コロナでいろいろなことができなくなって、それが今、できることが増えている。これはもうひとえにエッセンシャルワーカーの皆さんのおかげです。皆さんの支えによっていただいた機会を決して無駄にしないよう、その努力に感謝しながら、僕たちにできることをやっていきたいと思うので、これからもどうぞよろしくお願いします」
エッセンシャルワーカー
社会生活に欠かすことができない仕事に従事している労働者。「エッセンシャル(essential)」は、「必要不可欠な」「必須の」などと訳される。医療従事者のほか、スーパーやコンビニエンスストアなどで生活必需品を販売する店員、物資を運ぶトラックのドライバーや配達員、公共交通機関の従業員、電気やガス、水道などライフラインの供給に従事する人などが該当する。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言下で多くの人が在宅勤務になるなか、欠かすことができない存在として、その役割が注目された。
やまさと・りょうた 昭和52年4月生まれ。千葉県出身。関西大学文学部卒。吉本興業のタレント養成所であるNSC大阪校の22期生。平成15年、山崎静代さんと漫才コンビ「南海キャンディーズ」を結成。お笑いタレント、テレビ番組の司会者、俳優、声優、ナレーターなどマルチに活躍する。レギュラー番組は、「あざとくて何が悪いの?」(テレビ朝日)、「土曜はナニする!?」(関西テレビ)、「逆転人生」(NHK総合)など。