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古くて新しい京の宿 “温故知新”の施設が開業ラッシュ

 国内有数の観光地・京都でユニークなホテルが相次いで開業している。伝統的な京町家や寺院を改修したり、昔懐かしの銭湯を再現したりとタイプはさまざま。新型コロナウイルス禍で多くの宿泊施設が廃業・休業に追い込まれる中でのオープンとなったが、いずれの施設も予約状況は好調という。既存施設と差別化を図りながら、街の歴史や文化を継承した「温故知新」の施設の増加に注目が集まっている。(秋山紀浩)

 レトロな建物や京町家が並ぶ京都・三条通り近くに今月1日にオープンしたばかりのホテル「nol kyoto sanjo(ノル キョウト サンジョウ)」。酒造会社「キンシ正宗」(京都市伏見区)の販売所だった築約100年の町家を改修して、ホテルのロビーやラウンジとして生まれ変わった。外観の屋号や酒だる飾り、柱や年季の入った梁(はり)が特徴的な町家の趣はふんだんに残したままだ。

 コンセプトは「京都に暮らす」。客室料金は1部屋1泊2万6000円からと、高級感あふれる全48室の客室には、ヒバ製の浴槽が備わる。一方で、中長期滞在も可能にするため、室内には電子レンジや洗濯機、ミニキッチンもある。

 朝食には、京都ならではの「仕出し」を利用。歌舞伎役者や芸舞妓に人気のサンドイッチなどを楽しめる。担当者は「京都の街の情緒を感じながら、暮らすように滞在してほしい」と話す。

 神社仏閣が多い京都ならではのホテルも。9月に開業した「三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺」は、平家ゆかりの寺院と同居。ホテルと本堂が一体となった珍しい造りで、9階建てホテルのロビーには高さ3メートルの灯籠が置かれ、館内には旧本堂にあった飾りが施されるなど、荘厳な雰囲気が醸し出されている。

 一方、地域に根ざすことを目指して、先月14日にオープンしたのは「Umekoji Potel KYOTO(梅小路ポテル京都)」。港(port)のように人々が集まる場所としての願いを込めて、ホテルならぬ「ポテル」とした。

 特徴は名前だけではない。館内には、「ぽて湯」と名付けた銭湯を備え、宿泊者以外も利用できる。雄大な自然を描いた銭湯画やタイル張りと、昭和の味わいを残す昔ながらの銭湯にこだわった。同ホテルは「宿泊者と地域住民が隣同士で汗を流して交流する、そんな居心地の良さを目指したい」としている。

伝統融合で差別化

  伝統的建築を再活用した宿泊施設が開業する背景には、開業ラッシュで飽和状態と指摘される施設側の生き残り策や、減少する伝統建築への対応がある。

 京都市の調査では、市内の令和元年度の総客室数は約5万3400室と、5年前の1・8倍に急増した。一時、供給過多ともいわれた京都の宿泊施設だが、新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受け、市内主要ホテルの客室稼働率は4月に5・8%台にまで落ち込んだ。

 現在は「Go To トラベル」効果もあり、市内のホテル稼働率は上昇傾向にあるものの、廃業・休業となっている施設も多く、生き残り戦略も重要視される。

 町家を活用した「ノル キョウト」は、オープン前から年末年始までは週末を中心に予約でほぼ満室に。担当者は「コロナを機に、訪日客だけでなく国内客にも、京都の暮らしを体験できる施設として差別化を図ったことが影響したのでは」と手応えを述べる。

 嵯峨美術大の坂上英彦名誉教授(観光まちづくり論)は「コロナ前から訪日客を含め京都へのリピーター客は増えており、今後も文化・伝統を取り込んだ特徴ある宿の需要は高まるだろう。市中心部では人口減少と町家の老朽化が進んでおり、町家保存や文化継承につながることが期待される」と話している。

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