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創発電磁場によるインダクタ

 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子ナノ磁性研究チーム 客員研究員・横内智行

 「インダクタ」は、入力電流の時間変化に比例した電場を生じさせる回路素子で、身の回りのさまざまな電気機器の電気回路に使われている。電気機器を小型化するには、インダクタを微細化する必要があるが、古典電磁気力学に基づいて動作する従来のインダクタはコイルでできていて、微細なコイルを作るには高い技術とコストを要する。また、従来のインダクタでは、インダクタンス(入力した電流と生じた電圧の比例係数)の値がコイルの断面積に比例して小さくなるという問題があった。

 今回、理研の研究グループは、「創発電磁場」と呼ばれる量子力学的な効果によって生じる実効的な電磁場を用いた、新しいインダクタの理論を提唱した。この理論では、電子スピンの向きがらせん状になる「らせん磁気構造」が電流で駆動すると、創発電場によってインダクタンスが生じ、その値はインダクタを小さくするにつれて増大する。この理論を実験的に実証するために、短周期のらせん磁気構造を持つ物質Gd3Ru4Al12(Gd:ガドリニウム、Ru:ルテニウム、Al:アルミニウム)を作製し、インダクタンスを評価したところ、らせん磁気構造が形成される20ケルビン(-253℃)以下において理論に即した結果が得られた。

 本研究成果は、インダクタの微細化に向けた新原理の構築につながり、今後、物質探索を進めていくことで、室温で動作可能な創発インダクタの応用にもつながると期待できる

【プロフィル】横内智行

 よこうち・ともゆき 東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修了、博士(工学)理化学研究所基礎科学特別研究員を経て、2020年6月より現職。

 コメント=スピンのダイナミクスに関連した物理現象を開拓・解明し、応用につなげていきたい。

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 冠動脈疾患の発症に関する遺伝的変異の影響を解明

 理化学研究所生命医科学研究センター 循環器ゲノミクス・インフォマティクス研究チーム チームリーダー・伊藤薫

 心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患は遺伝性の高い疾患であり、これまで遺伝的変異(疾患感受性座位)と疾患との関連が多数報告されてきた。ここで「疾患感受性座位」とは、変異があると発症しやすくなったり、逆に発症しにくくなったりする染色体上の領域のことである。また最近では、遺伝情報だけから作成される「遺伝リスクスコア」が疾患発症を高い精度で予測することが明らかになってきた。しかし、これまでの研究は欧米人集団を対象としており、それらの研究成果が日本人集団にも適応可能かどうかは分かっていなかった。

 今回、理研を中心とした国際共同研究グループは、日本人約17万人のゲノムデータを用いて「ゲノムワイド関連解析(GWAS)」を行い、欧米人集団の研究では同定されていなかった8領域を含む、48の冠動脈疾患に関わる疾患感受性座位を新たに同定した。さらに、特定の民族集団のGWAS結果から導出した遺伝リスクスコアは他民族集団には適合せず、豊富に存在する欧米人ゲノムデータを他民族に使えないことが問題となっていたが、独自の方法を用いて欧米人集団のデータに日本人のデータを加えることで、高い予測性能を示す遺伝リスクスコアの作成に成功した。

 本研究成果は、冠動脈疾患の発症に関わる分子メカニズムの詳しい理解に役立つだけでなく、遺伝情報に基づいた個別化医療に貢献すると期待できる。

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【プロフィル】伊藤薫

 いとう・かおる 千葉大学大学院医学研究院博士課程修了、博士(医学)。ハーバード大学医学部遺伝学部門リサーチフェロー(ブロード研究所訪問研究員兼任)を経て、2016年4月より現職。

 コメント=革新的なゲノム解析法を通じて、循環器疾患領域の精密医療実現に貢献したい。

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 理研、オンラインイベント「科学道100冊2020-今知りたい、ウイルスと免疫の話」を開催

 理化学研究所(理研)と編集工学研究所は共同で、2017年から書籍を通じて科学者の生き方や考え方、科学のおもしろさや素晴らしさを届ける事業「科学道100冊」を展開している。今年9月には「科学道100冊2020」を発表。これに関連し、12月18日にオンラインで「科学道100冊2020-今知りたい、ウイルスと免疫の話」を開催する。ウイルス学者の武村政春東京理科大教授(『生物はウイルスが進化させた』の著者)と免疫学者の理研の小安重夫理事が対談。参加者との質疑応答も行われる。

 日 時:2020年12月18日(金)18:00~19:30

 対 象:中学生以上

 参加費:無料

 詳 細:https://kagakudo100.jp

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