コロナ禍による自粛期間中、葬儀のスタイルが急激に変化を遂げた。「家族葬」や、あまり聞き慣れない「一日葬」が増えたのだ。それぞれ、どんな特徴を持ったスタイルの葬儀なのかを紹介する。
一日葬
自粛ムード一色となった4月、5月。遺族の注目が集まった葬儀のスタイルが「一日葬」だ。
葬祭業向けの専門誌『月刊フューネラルビジネス』(総合ユニコム)が4月中旬に全国の葬祭業者に行った調査では、「一日葬」の割合が従前よりも1.5倍ほど増えた。
「一日葬」は、通夜を省き、葬儀を簡略化した葬儀スタイル。「ワンデー葬」と呼んでいる業者もある。「葬儀・告別式」の後に、「出棺式」「火葬」の順で行う。プランとして販売している業者もある。
主に斎場の利用料や葬儀社の人件費などが抑えられ、費用は100万円以内に抑えられることが多い。
都市部を中心に、コロナ禍の後もシェアを伸ばすだろうとみる業者は多い。業者にとっては、売り上げが落ちることになる“禁断の葬儀”。僧侶の中には「通夜の経も上げるから」と、一般葬と変わらない布施を求めるケースもあり、遺族からひんしゅくを買うこともあるという。
直葬
一日葬からさらに「葬儀・告別式」を除いた葬法。「納棺」後、直接火葬場に向かい、「火葬」される。費用は20万円程度。僧侶が呼ばれ、炉前で読経することも多い。
10年ほど前に注目され始めた。生活保護の「葬祭扶助」(20万円程度)の受給額範囲でできることから、生活保護受給者の利用率が高いという指摘もある。
家族葬
近年、増えてきており、一般葬と同じくらいのシェアがある。葬儀全体の手順は一般葬と同じ。会葬者を身内やごく親しい縁者に限定するものと考えていい。
落ち着いて故人とお別れができるメリットがある。一方で、後日、声をかけなかった人が「私も弔いたい」と自宅を訪れ、その弔問対応に追われることもある。
会葬者が少人数用の斎場に押し寄せるトラブルを避けるため、訃報は葬儀後に伝える方が望ましい。
費用は50万~150万円程度とされるが、一般葬と同じ祭壇や棺などを使用するため、全体の費用が抑えられないケースも多い。香典は一般葬に比べて少なくなるため、場合によっては葬儀費用と相殺できずに、一般葬よりも費用負担がかさむこともあり得る。
一般葬
伝統的な従来通りの葬儀。初日は、遺族を中心に個人を偲(しの)びつつ食事をして過ごす「通夜式」を開く。2日目には、宗教儀礼によって故人を偲ぶ「葬儀式」、また故人にお別れを告げる「告別式」が開かれる。その後、「出棺式」「火葬」となる。
通夜式は1~2時間程度が一般的だが、翌日に来られない人のための弔問対応も必要になる。翌日の葬儀・告別式は、身内だけでなく友人や同僚など関係者が幅広く参列する。
人の死は、その人を取り巻く社会的人間関係を再構築する。故人と縁のあった人々とともに、故人を送り出すには一般葬が最適だ。費用は100万~300万円ほどと規模による差が大きい。自粛期間中は件数を落としたが、大都市以外では件数が増えつつある。
お別れ会(偲ぶ会)
葬儀後、後日になって故人とのお別れをする場を「お別れ会」や「偲ぶ会」という。
葬儀が縮小化するなかで、一般葬であれば参列するはずだったのに、「呼ばれなかった」「死亡を知らなかった」という面々が集うことが多い。遺族が主催することもあれば、知人や友人が主催することもある。また、宗教色を排除した、オリジナリティーにあふれた式も多い。
コロナの影響もあり、致し方なく葬儀を簡略化するケースもあった。そのため、収束後に「お別れ会を開催したい」と希望する声も増えている。
遠方の遺族に映像を中継 葬儀・供養の場でIT化加速
葬儀や供養の場で、IT化が加速度を上げて進んでいる。最も注目を浴びているのが、遠隔地にいる親族らに葬儀の映像や音声を流す試みだ。画面の向こうで、親族が涙を流して故人を弔う光景があったという。
「オンラインでの葬儀というと寂しく味気ないというイメージがあるかもしれない。でも『やって良かった』と心から思う」
そう語るのは新潟市西蒲区にある「妙光寺」の小川良恵住職。妙光寺は、1人暮らしなど継承者がいない場合でも入ることができる集合墓「安穏廟(あんのんびょう)」を、全国に先駆け1989年に建てた寺として知られる。5月の連休明け以降、コミュニケーションアプリ「LINE(ライン)」の動画サービスを使って葬儀の様子を配信したという。
きっかけは、「葬儀に参列したいのだが、遠方にいて来られない肉親がいる」という遺族の声だった。最初のケースは、故人の次男が東京で生活をしており参列を躊躇(ちゅうちょ)した。小川住職が「ラインの動画で葬儀の映像を流したらどうか」と遺族側に提案すると、「助かる」という返事だった。
参列者は、故人の妻と長男ら身内の計5人という究極の家族葬。式を前に、映像がつながり互いの表情が見えると、それまで沈痛な様子だった遺族らは「久しぶり!」「元気してた?」とにこやかになった。
画面の先にいた次男は、喪服で正装していた。「式に参列したいという気持ちが伝わってきて、こちらの気持ちが引き締まった」と小川住職。読経が始まると、式場の後ろから寺のスタッフがタブレット端末を掲げて動画を送った。
「式だけの予定だったが、その後も見たいということだったので、棺に花を入れる場面も送信した。次男さんから『父の顔をしっかり見たい』という話があり、棺の中にカメラを向けた。次男さんが泣いていらっしゃるのが分かった」
ラインを使った葬儀では、ベトナムにいる親族ら5人に対して映像を流したという。小川住職は「私も最初は躊躇するところがあったが、故人ときちんとお別れをしたいという気持ちがあれば、マイナスになることはない」と振り返る。(『終活読本ソナエ』2020年夏号から随時掲載)