関西で今年開催予定だった生涯スポーツの世界大会「ワールドマスターズゲームズ(WMG)2021関西」の計画に不透明感が強まっている。新型コロナウイルスの影響で約1年の延期が決まったが、新たな日程はいまだに定まらないまま。大会組織委員会の会長として開催準備を牽引(けんいん)してきた井戸敏三・兵庫県知事は、先月3日に関西広域連合長を退任し、組織委会長も退くことが濃厚とみられる。関西財界が全面支援して準備が進められてきたWMGだが、開催実現に向け正念場を迎えている。
2017年4月、秋を迎えたニュージーランド・オークランドの街角では、普段と違う光景があった。国籍が異なる年配者らが首から下げたメダルを見せ合い「それは何の競技のメダル?」と戦績を報告し合う。会話を楽しみ、意気投合した彼らはビールを求めて波止場へ-。
これはWMGで見られる“お決まり”の風景だ。彼らのなかには元五輪選手といった著名アスリートも混じる。1985年に「生涯スポーツの祭典」としてカナダで初開催されたWMGは、欧米を中心に多くの人の心をとらえ、現在はアジアや南米など幅広い地域で開催されている。
WMGの関西への誘致活動を本格的に始めたのは関西経済同友会だった。少子高齢化が進むなか、経済界でも「健康寿命」の重要性から実現に向けた具体策として着目された。2013年1月に関西広域連合に誘致を提案し、連合長を務めていた井戸氏が同意。誘致活動を開始し、同年11月には国際マスターズゲームズ協会(IMGA)から開催合意を取り付けた。14年12月には組織委が発足し、官民を挙げた開催態勢が整った。
組織委会長退任へ
多くの関西企業やメディアから協賛・協力を取りつけ、順調に準備が進められたWMG。しかし、コロナ禍で事態は暗転した。
東京五輪を含め、多くのスポーツイベントが中止・延期を余儀なくされるなか、組織委は昨年10月、約1年間の延期を正式決定。11月にはIMGA側が延期方針を承認した。ただ、22年5月の開催を求めた組織委に対し、IMGA側は同年6月に韓国で地域大会が開かれることなどを理由に日程に同意しなかった。
組織委は2020年中に新たな日程を決めたい方針だったが、事態はさらに膠着(こうちゃく)状態に陥りつつある。
大会準備の状況を知る関係者は「IMGAとの交渉が難航するなか、組織委はやむなく、22年秋開催の可能性も模索し始めた」と打ち明ける。
さらに大会誘致を主導し、開催準備でも中心的役割を果たしてきた組織委の井戸会長が広域連合長の退任に伴い「組織委会長からの退任も濃厚になってきた」(自治体関係者)ことも懸念材料だ。新たに連合長に就任した仁坂吉伸・和歌山県知事が、関西経済連合会の松本正義会長とWMGの組織委会長を務める可能性が高いとみられるが、かじ取りは容易ではない。
スポンサー不満
延期に端を発した混乱に、スポンサー企業や財界関係者からは不満の声が上がる。