まさかの法的トラブル処方箋

違和感を覚える養育費強制徴収の動き 結婚が破綻…そこに潜む法律の“罠”4 (3/3ページ)

上野晃
上野晃

 克服すべき親子の離別の問題

 先ほどもお話しした通り、私は養育費を確保するために様々な政策を講じることそれ自体、反対するものではなく、むしろ大賛成です。しかし、「養育費を支払わないのはけしからん」と言う前に、わが国にはやるべきことがあると思います。別居・離婚に伴う親子の離別の問題の解決です。

 この問題を解決することで、養育費をむしろ率先して支払うようになる人が、私の肌感覚ではかなりの数います。まず、彼らを救うべきです。そして、親子の離別の問題が克服されてなお、養育費の支払いを拒んでいる者がいたら、それは間違いなく不届き者でしょう。その時はあらゆる手段で彼らから養育費を徴収すべきです。

 かつて、南アフリカで「アパルトヘイト」という有色人種差別法がありました。この制度の下で生活する黒人たちの中には、バスの運賃の支払いを拒絶する人がいたそうです。その中には、アパルトヘイト制度に反対の意思表示として拒絶する人もいましたが、単なる無法者もいました。彼らを一緒くたにして罰して良いでしょうか。

 いや駄目でしょう。まずは、アパルトヘイトを廃止しなければ。廃止してなお、バスの運賃を支払わないのは無法者だけです。無法者をあぶりだすために、悪法を改める必要があるのです。それをしないままに違反者を罰することは、国が人権侵害に手を貸すことになってしまいます。絶対にやってはいけません。

 親子の関係を断ち切らせている今の制度のまま、養育費の強制徴収だけ推し進めていこうとする今の流れは、国が人権侵害に手を貸す結果となるということにも留意しなければなりません。

神奈川県出身。早稲田大学卒。2007年に弁護士登録。弁護士法人日本橋さくら法律事務所代表弁護士。夫婦の別れを親子の別れとさせてはならないとの思いから離別親子の交流促進に取り組む。賃貸不動産オーナー対象のセミナー講師を務めるほか、共著に「離婚と面会交流」(金剛出版)、「弁護士からの提言債権法改正を考える」(第一法規)、監修として「いちばんわかりやすい相続・贈与の本」(成美堂出版)。那須塩原市子どもの権利委員会委員。

【まさかの法的トラブル処方箋】は急な遺産相続や不動産トラブル、片方の親がもう片方の親から子を引き離す子供の「連れ去り別居」など、誰の身にも起こり得る身近な問題を解決するにはどうしたらよいのか。法律のプロである弁護士が分かりやすく解説するコラムです。アーカイブはこちら

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