先週は米国の株式市場の下落が一段落し、反発に転じたことで市場全体のリスク許容度が拡大となりました。外国為替市場では、米国債利回り上昇の影響もあり、米ドルが対円、対ユーロで比較的強い推移となりました。
少し前までは、株式市場が上昇すると、米ドルが売られ、株式市場が下落すると、リスク回避で米ドルが買われるという展開になる場合が多かったですが、株式市場と米ドルの値動きの相関性に変化が生じているようです。
今週はパウエルFRB議長やラガルドECB総裁、ベイリーBOE総裁のコメント機会が予定されています。市場に大きなインパクトを与えるような内容となる可能性は低いと考えられますが、内容次第では市場が過敏に反応する可能性が考えられるため、注意が必要となりそうです。
また、米国では消費者物価指数の発表が予定されています。米国のテーパリング(金融緩和縮小)観測が後退しているため、少し注目度は下がりますが、金融政策を占う上では重要な経済指標の一つであるため、市場予想との乖離が大きいと外国為替市場への影響が出てくる可能性も考えられそうです。
ドル円は底堅い動きが続くかに注目
では、世界中に顧客を持つ外国為替証拠金取引(FX)会社のOANDA(オアンダ)が提供するオーダーブックで外国為替市場の動向を探ってみましょう。
オーダーブックはOANDAの顧客の取引状況を公開したデータです。顧客の保有しているポジションの取得価格の水準(縦軸)と割合(横軸)を示す「オープンポジション」と、顧客の未約定の注文の価格水準(縦軸)と割合(横軸)を示す「オープンオーダー」の2種類のデータから成ります。
ちなみに、ある通貨を買っている状態を「買いポジション」、売っている状態を「売りポジション」といいます。買いポジションを保有している場合、その通貨の価格が取得価格から上昇したら収益が上がり、逆に下落すると損失が発生します。売りポジションを保有している場合は、取得価格から下落すると収益が上がり、上昇すると損失が発生します。FXでは、それぞれのポジションとは反対の売買を行って決済(損益の確定)をする仕組みとなっているからです。
先週もドル円は底堅い動きが続き、1米ドル=105.80円付近まで上昇する動きとなりました。
OANDAのオープンポジションを見ると、買いポジションの比率が55%程度まで減少する中、価格の上昇により、含み損を抱えた売りポジションが増えており、下押した水準では安堵の買い戻しが増え、また、高値を切り上げる動きとなると損切り(損失拡大を防ぐための決済取引)の買いが増えることが想定され、底堅い推移が続く可能性を見出すことができそうです。
ただし、直近の下押しで苦しくなった買いポジションも少し増えており、上昇した水準ではこれらの利益確定売り、下押しが続くとこれらのポジションの損切りの売りが増える可能性にも少し注意が必要となりそうです。
ユーロドルは上値の重さ残る可能性あり
先週のユーロドルは上値の重い推移となり、前週の安値水準の1ユーロ=1.2050米ドル付近を割り込む動きとなりました。
OANDAのオープンポジションを見ると、下押しが続いたことにより、含み益を抱えた買いポジションが少し増えており、反発した水準では安堵の利益確定売り、安値を切り下げる動きとなると、これらのポジションの損切りの売りが増える可能性が考えられ、上値の重い状態が続く可能性を見出すことができます。
一方で週末の反発により、含み損を抱えた売りポジションも少し増えており、反発地合いが続くとこれらのポジションの損切りの買いが上昇を後押しする可能性、また下押した水準では安堵の買い戻しが下落圧力を和らげる可能性も考えられそうです。
ポンドドルはもう一段の上昇余地あり
先週のポンドドルは下押した水準では買いが入り、高値圏でのもみ合いが続いています。
OANDAのオープンポジションを見ると、売りポジションの比率が60%台まで上昇する中、その多くが含み損を抱えており、下押した水準では安堵の買い戻し、高値を切り上げる動きとなると、損切りの買いが増え、上昇を後押しすることが想定され、もう一段の上昇余地は残されているように見えます。
ただし、直近の揉み合い水準で構築された買いポジションも多く、仮に高値を切り上げ、売りポジションの損切りが一巡するような動きとなった後は、利益確定の売りが増える可能性にも注意が必要となりそうです。
【OANDAのオーダーブック】
オープンポジションはここに注目!
相場を動かす要因の一つは損切り注文といっても過言ではありません。
これ以上損失を増やしたくないトレーダーは保有しているポジションの反対売買を行い、損失を確定させ、市場から退出します。
例えば、価格が下落する局面では、買いポジションの保有者が苦しくなり、損切り注文(決済の売り注文)が出やすくなり、下落圧力が強まる要因となります。
損切り注文は価格の向かう方向と同じ方向へ力が加わる注文となるため、損切り注文が多くでる場面では、短期間に相場が大きく動きやすくなります。
オープンポジションを見ると、どの水準に含み損を抱えたポジションが多いかを視覚的にチェックすることができ、次にどちらに動いた方が、価格の動きが大きくなりそうか(損切り注文が多く出そうか)を予想することができます。
オープンオーダーはここに注目!
前述の通り、損切り注文が増えると、一方向への力が強まるため、価格の動きが勢いづくことがあります。
オープンオーダーを見ると、どの水準にどの程度の注文(オーダー)が入っているかを視覚的に素早くチェックすることができます。
損切り注文が多く入っている水準に到達すると、価格が短期的にでも勢いづくことがあるため、注意が必要です。
世界中のトレーダーの相場分析のサマリー?
トレーダーが損切り注文を入れる水準は、通常は、チャートで相場分析を行なった上で、「この水準を超えてしまったら、相場の流れが逆方向に向かう」と考えた水準に入れます。
OANDAのオープンオーダーは、世界中のトレーダーが相場分析を行った結果のサマリーと言っても過言ではありません。
これを見れば、世界中のトレーダーがどの水準に注目し、相場の転換点となると考えたかを簡単にチェックできます。
※逆指値注文:現在の水準よりも不利な水準を指定して行う注文。通常、損切り注文はこの逆指値注文を使います。
本記事に掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。
OANDA Japan株式会社
第一種 金融商品取引業 関東財務局長 (金商) 第2137号
加入協会等:一般社団法人 金融先物取引業協会 日本証券業協会 日本投資者保護基金
【オーダーブックで読み解く外為市場】はOANDA FXラボ編集部が投資判断の参考として外国為替市場の動向を読み解く連載コラムです。更新は原則毎週火曜日。アーカイブはこちら