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鉄道なし・人口1万人の町、遷都の次にスーパーシティを狙う

 人工知能(AI)やビッグデータを使い、暮らしの利便性を高めるねらいで国が進める国家戦略特区「スーパーシティ構想」に、人口1万人あまりの岡山県吉備中央町が名乗りを上げている。最近は「首都の移転先」としてPRをしたことで注目され、過去には「吉備高原都市」や「テクノポリス」といった取り組みも行っていた同町。地方再生に向け、あの手この手を打ち出している。

 テクノポリスにも指定

 吉備中央町は岡山県の中部の高原地帯に位置する。平成16年に2町の合併で誕生したが、合併前の昭和50年には、岡山県が主導する形で福祉施設や住宅地を整備する「吉備高原都市」の計画が始まっていた。約1900ヘクタールの土地を開発し、3万人を居住させるプランだ。59年には同じ区域が、国が高度な技術を集積して都市の発展を目指す「テクノポリス」の指定を受け、企業や研究機関の誘致も進めた。

 ただ、バブル崩壊後に計画を縮小。県が財政再建を進め、平成14年、開発は実質的に凍結された。

 現在、吉備高原都市内の居住者は1600人弱にとどまる。少子高齢化が進む中で交通アクセスの良い県南部や県外への流出は続き、町の人口はピーク時(7年)の約1万5507人から減少を続け、今年1月現在で1万925人となっている。

 県も、売れていない分譲地で新たに建設した住宅メーカーに対して補助金を出す制度を設けるなど、テコ入れも続けている。

 隈研吾氏を顧問に

 同町が近年注目されたのは、首都の移転先としてPRしたこと。地震がほとんど起きない強固な地盤が売りで、令和元年には遷都先として名乗りを上げるシンポジウムを行った。

 そして次に同町が着目したのがスーパーシティ構想だ。町と町内の業者らで昨年7月に推進協議会を設立。新国立競技場(東京)を設計した建築家、隈研吾(くま・けんご)氏を顧問に迎えた。

 構想は最新技術を使って暮らしの利便性低下を防ぐもので、実現に向けたアイデアに応じてさまざまな規制緩和が進められる。

 同町では教育の充実で若い世代のつなぎ止めを図る考えで、オンラインで学校間を結び、教室に教師がいなくても授業を行うことができるようにする。AIを使って児童・生徒の学習の理解度を把握し、オンラインでそれぞれの習熟に応じた授業を行うことも視野に入れている。

 一方、町内には鉄道が走っておらず、バスや乗り合いタクシー、自家用車が交通の手段。車が運転できなくなることに不安を持つ高齢者も多い。このため医療面で、オンライン診療や小型無人機(ドローン)を使った医薬品配達ができるようにする。移動検診車の導入も進める。これらの中には新型コロナウイルス禍で時限的に規制緩和されている分野もあり、同町企画課の担当者は「緩和を継続する形で、都市構想を進めていきたい」としている。

 ライバル多し

 住民側の受け止めはどうか。2月7日に行われた住民説明会には、地区に住む1600人弱のうち計147人が参加。アンケートに回答した131人の中で、明確に賛成を示したのは79人、反対は8人だった。70代男性は「かつての都市構想によく似ているので、協力したい」として賛成を表明。反対者の中には「アナログな自然を求めてやってきたのに、デジタル化してほしくない」とする声もあった。

 構想では、政府は全国の自治体からの申請を受け付け、5地区程度を選定する予定。昨年10月末までに57の自治体や団体が手を挙げており、ライバルは多い。同町企画課は「計画が打ち出された当時に、夢を見て移住してこられた方もいる。ハード面での開発ではないが、ソフトで補い暮らしの利便性を高めていきたい」と期待を込めている。

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