宇宙開発のボラティリティ

イーロン、ベゾスに勝利し狂喜乱舞 最新宇宙ニュースの「深層」 (2/2ページ)

鈴木喜生
鈴木喜生

 インジェニュイティは、探査ローバー「パーシビアランス」(またはパーセヴェランス)の機体下部に搭載された状態で、今年2月19日(日本時間)に火星に着陸。その後、パーシビアランスから分離されて火星地表に設置され、二重反転ローターの頂部に搭載されたソーラーパネルで充電しつつ、NASAの一機関であるJPL(ジェット推進研究所)によって事前テストが繰り返されていました。

 テストフライトが開始されると、インジェニュイティは高度3mまで上昇し、約30秒間ホバリングして無事着陸。今回のテストでは上昇、ホバリング、降下着陸のみが実施されましたが、今後は水平移動も試験される予定であり、最終的にはパーシビアランスが探査すべき地表を上空から探索・撮影する役割を果たします。

【インジェニュイティのテスト飛行映像】

▼火星でヘリを飛ばすことが、なぜ難しいのか?

 火星の重力は地球の約3分の1ですが、大気密度は地球の地表の1%しかありません。その空間にヘリを飛ばすには、機体を可能な限り軽量に仕上げ、ブレード(回転翼)の翼型をもっとも効果的なものにする必要があります。

 また、火星の地表に届く太陽光は地球の約半分しかなく、そのため効率の良いソーラーパネルであっても、ある程度の面積が必要になります。一方で、火星地表は夜間には摂氏マイナス90度まで下がるため、とくに電子機器などが凍って損傷する可能性があり、それを回避するためにはヒーターを搭載する必要があります。

 火星と地球の間では通信に20分以上かかるため、飛んでいる機体を地球から制御することができません。そのためインジェニュイティには自立航行するためのカメラとセンサーなど数々の航法装置が搭載されています。

 ソーラーパネル、ヒーター、航法装置の搭載は、機体質量の増加を意味します。しかし、こうした必須機器をすべて搭載したインジェニュイティの質量は、わずか1.8kg。これほどコンパクトで軽量な機体が、自ら充電し、過酷な環境で浮き上がるたけの推力を生み出し、自立的に飛び、地表にある岩石分布を分析しながら撮影する能力を秘めています。かつて惑星探査機ボイジャーの開発運用も実現してきたJPLは、その高い技術力で知られていますが、このインジェニュイティの開発には6年の歳月が費やされています。

News03:2人目の「日本人ISS船長」、22日に打ち上げ

 4月22日(木曜)には、星出彰彦氏が搭乗するクルー・ドラゴン(Crew-2)がISS(国際宇宙ステーション)に向けて打ち上げられます。星出氏にとっては2008年、2012年に続いてこれが3度目のフライトで、滞在中はISSの船長(コマンダー)を務めます。日本人としてISSの船長を務めるのは若田光一氏(2013年)についで2人目であり、NASAのこの人選は、近年の日本人宇宙飛行士がその存在感を強めていることの証とも言えます。

 打ち上げの様子はYouTubeのNASAチャンネル、またはJAXAチャンネルで、リアルタイムで視聴可能。打ち上げ時間は日本時間の19時11分に予定されています。

【星出彰彦氏の打ち上げライブ配信】

▼NASA YouTubeチャンネル

▼JAXA YouTubeチャンネル

4月22日(木曜) 18時15分配信開始

 そして現在ISSに長期滞在中である野口聡一氏は、その任務を星出氏に引き継ぎ、同29日(木曜)に地球へ帰還します。この間、日本人ふたりがISSに同時に滞在することになりますが、これは2010年、野口氏(ソユーズTMA-17)と山崎直子氏(STS-131)がISSに同時滞在して以来12年ぶり、2回目のこととなります。

 有人月探査の再開、火星探査、日本人宇宙飛行士の活躍など、歴史に残る宇宙関連ニュースが連日のように飛び込んできますが、2021年においては今後もさらに大きなビッグプロジェクトが数多く予定されています。アポロ計画、スペースシャトル計画、ISS計画などを経て、宇宙開発はいま、まったく新しい局面を迎えているのです。

出版社の現役編集長。宇宙、科学技術、第二次大戦機、マクロ経済学などのムックや書籍をプロデュースしつつ自らも執筆。趣味は人工衛星観測。これまで手掛けた出版物に『宇宙プロジェクト開発史大全』『これからはじまる科学技術プロジェクト』『零戦五二型 レストアの真実と全記録』『栄発動機取扱説明書 完全復刻版』『コロナショック後の株と世界経済の教科書』(すべてエイ出版社)など。

【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。アーカイブはこちら

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