新型コロナウイルスの感染再拡大に伴い、25日に発令された3度目の緊急事態宣言。政府は酒類提供の飲食店や大型商業施設の休業要請など、短期集中的に幅広い措置に踏み切った。感染力の強い変異株が脅威となり、飲食店だけでなく、そこに至る人の流れを食い止めずに感染を抑えられないという苦渋の決断だ。専門家は「新たな挑戦」と期待を込め、効果を見極める。(伊藤真呂武)
「感染源の中心である飲食に対する対策を夜間に限らず徹底する。お酒を伴う飲食は、ともすれば大声、長時間となり、感染リスクが高い」。菅義偉首相は23日、昨春の宣言にもなかった酒類提供店の休業要請の狙いをこう説明した。
2度目の宣言や、その後の蔓延(まんえん)防止等重点措置では、カラオケや接待を伴う店を含む飲食店でのクラスター(感染者集団)の発生が止まらなかった。厚生労働省によると、19日時点で1168件と約1カ月間で約150件増加。山梨県富士吉田市のバーでは、感染防止対策を徹底した県の認証店でも、変異株クラスターが発生していた。
クラスターの件数だけなら高齢者施設や職場の方が多いが、東京医療保健大の菅原えりさ教授(感染制御学)は「お酒を飲むことで行動の抑制が外れ、集団になるほどコントロールが難しい。業界の反発が大きくても、強制力が必要」と政府の判断に賛同する。
同様に2度目の宣言の反省に立った対策が百貨店や映画館、美術館など幅広い業種への休業要請といえる。こうした施設自体に感染リスクがあるわけではないものの、菅首相は「一段と感染レベルを下げるために人流を抑え、人と人の接触機会を減らすための対策だ」と理解を求める。
菅原氏は「季節が良くなり、大型連休は外出の好条件が重なる。人が集まれば関連する飲食は避けられず、結果的に感染リスクが高まる。その目的になる場所を止める」と指摘。「感染力の強い変異株に対し、今回の対策で感染者を減らせるかは分からない。新しい挑戦であり、厳しい対応は必要」と強調する。
発令期間が5月11日までの17日間となったのは、経済や「自粛疲れ」への配慮もみられるが、政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は「11日になったら無条件で解除ということではない」とくぎを刺す。東京都なら、7日間平均の新規感染者が現在の700人超から300人になることを解除の目安とする意見が大半だ。
菅原氏も「17日間での解除は楽観的。200人台を維持できれば医療は逼迫(ひっぱく)しない。100人台まで一気に減らし、再び徐々に増える間にワクチン接種を進めれば、次の波を防げる可能性がある」とみる。
今後の試金石となりそうなのが、埼玉、千葉、神奈川の3県の対応だ。宣言の対象には加わらなかったが、28日から重点措置の対象地域を10市から36市町に拡大し、飲食店に終日酒類提供の自粛を求める。菅原氏は「宣言の周辺地域に、先手先手で重点措置をかけることで十分に効果を発揮できるかもしれない」と推移を見守る。