終活の経済学

身近な死後の手続き(1)「自宅で最期を迎えたい」

 「人生100年時代」といわれて久しいが、自分や家族の「死後の手続き」を心配する人たちが増えている。人生を締めくくるお葬式の形、自身や家族に憂いを残さない遺言や相続など、悩みは尽きない。生前からできることを含め、失敗せずに進めるコツを分かりやすく紹介する。

 「ご臨終」は人生の一大事だ。できるだけ慌てずに対処し、本人や家族の思いを反映させた葬送を行うには、生前にある程度、お葬式のことを検討しておくことも大切だ。

 コロナで看取れず

 2020年2月からの新型コロナ禍の影響で、「ご臨終」を迎える場所が大きく変わりつつある。コロナ禍以前も00年以降、老人ホームなど高齢者施設で亡くなる人の割合が少しずつ高まっていた。背景には、愛用の私物を持ち込める「ユニット型個室」導入、介護保険の「看取り加算」新設など、急性期以外の入院患者を施設に移していく国の施策があった。

 新型コロナをきっかけに、自宅での最期を望む患者、家族が増えている。感染防止を最優先する病院では、余命わずかとなった患者でも、家族の面会を制限せざるを得ない状況になっているからだ。

 医療関係者によると、家族からは「病院ではご臨終を看取れない」「まったく面会できないまま、急に逝ってしまった」という嘆きも聞かれるという。

 コロナ感染のペースが緩やかになった時期には、病院の対応も柔軟になった。東京都内のある病院では、ご臨終の際、人数制限を条件に立ち会いができるように改めたり、医師が余命わずかと診断すると、家族の希望を前提に患者を個室に移し、面会しやすい態勢を整えたりした。

 ところが、新型コロナの感染状況が悪化すると、「余命1週間」と診断されて毎日、面会に来ていた家族が、患者の亡くなる3日前に突然、「面会は謝絶させていただきます」と言われたり、ご臨終の際に「申し訳ありませんが、立ち会いはできなくなりました」と断られたりする辛いケースが再び目立ってきた。

 根底に「家族の不安」

 「自宅で最期を」と在宅看護を望む人の増加について、日本看取り士会・看取りステーションなごやかあいち(名古屋市中区)代表で看護師の白瀧貴美子さんは、「家族の不安」を大きな理由にあげる。

 「主治医から検査結果を聞き、データを見せられ、治療の方針を聞けても、入院中の家族にはなかなか会えません。看護師さんから入院中の様子を教えてもらうだけだと、家族の不安はどんどん大きくなります」

 白瀧さんによれば、余命わずかとなった人や家族のうち、自宅での最期を考える人はコロナ禍以前、1割程度だったが、最近では4割近くになり、相談も増えているという。

 「ずっと仕事を優先してきた家族には、『最期くらい、母を自宅で看取りたい』と思う方もいます。家族も最初は、大切な人が食べられなくなり、身体が痩せ、動けなくなる様子を受け止めきれないこともあります。でも、少しずつ受け止められるようになります。『そばにいたい』『支えたい』という気持ちになっていかれます」

 在宅看護・介護は家族の負担が高まり、病状次第で難しいこともあるが、こうした傾向は確実に高まっていきそうだ。

 在宅で最も気がかりなのは、「いよいよ」というときの対応だろう。白瀧さんは家族の心の準備ができていれば、「寝ているときにスーッと息がなくなるときもあるけど、慌てなくていいですよ。すぐに連絡をしてください。待っている間は、体をずっと触ってあげてくださいね。気持ちが落ち着きますから」といった具体的なアドバイスをするという。

 逆に、心の準備ができていない家族には「何かおかしいと思ったら、すぐに連絡してください。夜でも遠慮なくかけてくれて大丈夫ですよ」と話すそうだ。

 搬送・安置は即断即決が鍵 「死亡届」は7日以内に 慌てず対応を

 ご臨終のあと、家族に渡される「死亡診断書」は、極めて大切な書類だ。実は、死亡を知った日から7日以内に提出する「死亡届」と1枚の用紙になっている。一度提出してしまうと、死亡日時や死因など重要な情報が手元に残らなくなってしまう。死亡届を作成した段階で数枚をコピーし、大切に保管しておきたい。

 あの世へのチケット

 死亡診断書は、亡くなった場所や状況によって、書く人が異なる。病院では主治医が書くが、自宅で亡くなったら、かかりつけ医、訪問医を呼んで死亡を確認してもらう。高齢者施設で医師の管理のもとでご臨終となった場合は、その医師が書くことになる。

 自宅でひとりで亡くなるなど、病気による死亡と即断できなければ、警察の「検視」や警察医などの「検案」が行われることがある。異常がなく、死因を解明する「行政解剖」が不要なら、すぐに「死体検案書」が発行される。

 死亡届は、(1)故人の本籍地(2)死亡した場所(3)届出人の住所地-のいずれかの市区町村役場に提出する。このとき、一緒に申請して発行してもらうのが「埋火葬許可証」だ(市区町村で名称が異なる)。

 これがないと火葬ができない。火葬後は埋火葬許可証に「火葬済」の印をもらい、納骨の際に持参する。つまり、ご臨終から納骨まで、すべての手続きがつながっているわけだ。死亡診断書(死体検案書)はまさに、「あの世行き」の1枚目のチケットということになる。

 夏場は4日が目安

 ご臨終の後、遺族が最初に問われるのは、遺体をどこに安置するかだ。

 病院などで亡くなり、葬儀社やお葬式をする場所が決まっている場合、自宅、葬祭会館、火葬場の霊安室、民間の安置施設などから選ぶ。

 葬儀社が決まっていなければ、病院の案内などで依頼した葬儀社に搬送してもらう。ただし、必ず同じ葬儀社でお葬式をしなければならない、ということはない。とりあえず、搬送をお願いし、その業者も含めて複数から見積もりをとるなど、慌てずに対応しよう。自宅で亡くなったときは、そのまま安置することができるかがポイントとなる。

 葬儀社に聞くと、「自宅で安置したい」という思いはあるものの、住宅事情から葬祭会館を希望する家族が多いという。ただし、希望があれば自宅に搬送する。

 ここで問われるのが自宅の環境だ。例えば、夏場に安置する部屋にエアコンがなければ、ドライアイスの効果に悪影響を及ぼし、遺体にもマイナスだ。こうした場合は、葬祭会館や安置施設などに搬送する。

 自宅で安置できる日数は、遺体の状況や室温にもよるが、冬場は1週間、夏場は4日間がひとつの目安とされている。「室温は18~20度くらいの設定にしたほうがよい」(葬儀社スタッフ)という。

 少しでも長く一緒にいたい場合は、血液と防腐剤を入れ替えて遺体を保全する「エンバーミング」といった方法で対処する。専門の技術を習得したエンバーマーが行い、費用は15万~25万円程度。葬儀社に相談・依頼する。

 また、「家に帰りたい」と言い続けながら、結局は病院で亡くなる、という人も多い。自宅で安置することが難しい場合は、搬送車が自宅の前や周辺を回ってから、葬祭会館あるいは安置場所に向かってくれることもある。担当者に尋ねてみてほしい。

 高齢者施設では安置施設を用意しているところもある。また、民間の安置施設では、面会ができなかったり、時間に制約があったりする場合もある。システムをよく理解したうえで利用したい。(『終活読本ソナエ』2021年新春号から順次掲載)

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