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「ノマドランド」現実と“美化”の調和 米国で目覚めたジャオ監督 (1/2ページ)

 今年の米アカデミー賞は、車上生活をする季節労働者を描いた米映画「ノマドランド」(クロエ・ジャオ監督)が作品賞、監督賞など3冠を獲得した。ベネチアなど主要な国際映画祭でも最高賞を射止めたこの作品。登場人物の誇り高さやある種の節度、またジャオ監督が差配した現実と“美化”との見事なバランスが、映画祭・地域の枠を超えて評価されている。(水沼啓子)

現実と美化の間で

 「ノマドランド」は、企業の破綻で住居を失い、夫にも先立たれた61歳の女性、ファーン(フランシス・マクドーマンド)が、キャンピングカーで米国の季節労働の現場を渡り歩くロードムービー。2008年のリーマン・ショックなどをきっかけに、米国の主に高齢者の一部が年金や蓄えだけでは暮らしていけず、こうした“現代のノマド(遊牧民)”となって各地を放浪している。主演のマクドーマンドら数人の俳優を除き、出演者は実際に車上生活をしている人たちだ。

 ベネチア(伊)やトロント(加)といった主要な国際映画祭で最高賞を受賞したほか、米のゴールデングローブ賞でも作品賞と監督賞を受賞。同賞を選考するハリウッド外国人記者協会に所属するロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト、小西未来(こにし・みらい)さん(49)は作品の魅力をこう語る。「題材が新しい上、リアリティーを持っている。自由と表裏一体のアメリカン・スピリットが垣間見え、西部劇の現代版という側面もある」と分析する。

 「キネマ旬報」元編集長の掛尾良夫(かけお・よしお)さん(70)は、“おひとりさまの老後”を生きる意味を問いかけた米映画「アバウト・シュミット」(アレクサンダー・ペイン監督、2002年)を思い出したという。「約20年前なら定年後に優雅な暮らしができた中間層が、現在は車上生活者になってしまった姿をリスペクトを持って描いたことが、多くの人たちに共感を与えた」と語る。

 ノマドの多くはグローバル経済のひずみを受けて「中流」から「下流」に転落した人々。この格差社会も当然描かれるが、手法は詩的だ。小西さんは「説教調や押しつけがましいところがない。社会問題を、言葉ではなく米国の圧倒的な美しい自然、雰囲気で見せている」と話す。

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