公道を走るレコードブレイカー
それもそのはず、メガーヌR.S.には4コントロール機能が組み込まれている。ステアリングを切り込むと、前輪とは逆の向きに後輪が転舵する。右にステアすれば後輪は左に、左にステアすれば後輪は右に向きを変えるのだ。最大2.7度という、数字にすればわずかな逆位相だが、コンマ数ミリで大きく挙動が変わるのがクルマの世界である。そこでの2.7度は大きすぎる。
もちろんそれは、駐車場などでの取り回しを意識した最小回転半径のためではない。それにも効果を発揮するが、むしろ限界領域でのスポーツ性能のための機能である。高い速度でコーナーに飛び込むときのフロントが外側にはらむ現象を、後輪が逆位相に転じることで補うのである。鋭い旋回性能が得られるのは4コントロールの効果が大きい。
しかも驚きなのは、最大2.7度の逆位相が、速度が100km/hに達するまで維持されることだ。それ以上の速度域では前輪と同じ向きの同相に最大1度まで転舵することで車両を安定させるのだが、それまでは逆位相で旋回力を強調するのである。
100km/hとは、高速道路の法定最高速度である。一部の区間を除くものの、日本の高速道路のあの速度域でもメガーヌR.S.ははまだまだ曲がりたがるのである。
これはもう、アベレージ速度200km/hに届かんとするニュルブルクリンクを想定してのセッティングに他ならない。まさに公道を走るレコードブレイカーと呼ぶに相応しいマシンなのである。
もちろん公道でいたずらにスリリングな挙動に陥るほどマナーは悪くはないが、その気になればレーシングカーのように攻撃的なドライビングが可能だということだ。
一部のマニアの世界でメガーヌR.S.が神格化されている意味が理解できた。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。