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酵母の果糖発酵と資化能力を再発見

 理化学研究所バイオリソース研究センター 微生物材料開発室 研究員・遠藤力也

 ■酵母の果糖発酵と資化能力を再発見

 理研バイオリソース研究センター微生物材料開発室は、文部科学省が推進するナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)の中核的拠点として、多種多様な微生物株を収集・保存・提供している。幅広い研究コミュニティーにおいて品質の確かな微生物株を利活用してもらうために、保存する微生物菌株の品質管理は極めて重要なミッションといえる。

 酵母には1500以上の種が知られているが、これまでブドウ糖やショ糖に対する酵母のアルコール発酵(以下、発酵)の能力や、栄養源として利用できる資化能力のデータは充実している一方で、果糖に関するデータはほとんどなかった。

 今回、理研の研究チームは、388株の酵母を用いて品質管理の一環で実験を行ったところ、全株が果糖に対する資化能力を持ち、302株(約78%)が発酵能力を持つことを発見した。この結果から、この2つの能力が酵母の普遍的な表現型であることが明らかになった。また、発酵においてAmbrosiozyma platypodisとCyberlindnera americanaの2株は、ブドウ糖と果糖を混合して与えた場合はブドウ糖を好み、ブドウ糖または果糖を単独で与えた場合は果糖を特に好むことが分かった。

 本研究成果は、生物遺伝資源として保存され、研究材料として利用される酵母の利用価値を高める基礎データとして重要であり、また、酵母の野外生態の解明にも貢献すると期待できる。

【プロフィル】遠藤力也

 えんどう・りきや 京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了、博士(農学)。森林総合研究所(日本学術振興会特別研究員PD)を経て、2012年4月より微生物材料開発室にて酵母の菌株担当(現職)。

 ■コメント=表現型をヒントに、森林に潜む“野良酵母”の生き様に肉薄したい。

 理化学研究所開拓研究本部 柚木計算物性物理研究室 客員研究員・江島聡

 ■スピン流で電流の渦を作る

 電子の電荷の流れである電流のほかに、電子のスピンの流れである「スピン流」も積極的に利用しようという「スピントロニクス」が、従来のエレクトロニクスに変わる次世代デバイス技術として注目されている。電子の自転運動によって生じるスピン角運動量と電子が原子核の周りを周回運動することで生じる軌道角運動量との間には、「スピン軌道相互作用」という力が働く。スピン軌道相互作用のうち、2次元電子系などで著しいものをラシュバ型という。ラシュバ型スピン軌道相互作用を持つ金属や半導体に、スピン流を注入することで電流を発生させる現象は、スピントロニクスにおける磁気と電気の相互変換のための重要な基礎技術である。

 今回、理研を中心とする国際共同研究グループは、スピン流を「電流の渦」に変換する新しい現象を数値シミュレーションにより発見した。同じ物質において、注入するスピンの「スピン分極方向」をこれまでと異なる方向に選ぶことで、電流の渦が誘起された。電流の渦は回転による角運動量を持つことから、この現象は注入したスピンのスピン角運動量が電子の回転角運動量に変換されたと理解できる。電流の渦は磁界を伴うため、この現象は電磁波の新しい発信技術としても利用可能である。これまでのスピントロニクス研究では、スピン分極方向はあまり重要視されてこなかったことから、本研究成果は新たな視点をもたらすものである。

【プロフィル】

 えじま・さとし ドイツ・マールブルク大学物理学部博士課程修了、博士(理学)。同グライフスヴァルト大学物理学部研究員等を経て、2016年8月より現職。

 ■コメント=電子・スピンの非平衡ダイナミクスにおける物理現象を理解し、応用につなげていきたい。

 ■融合連携制度「ONE TEAMバトンゾーン」のご紹介

 理化学研究所(理研)バトンゾーン研究推進プログラム(BZP)では、明るい未来社会の実現のため、理研と企業が一体となって研究開発を行っている。

 産業界との融合的連携研究制度「ONE TEAMバトンゾーン」では、企業の担当者がチームリーダーとなって研究チームをマッチングファンドで作り、社会的課題の解決につながる研究成果の実用化に取り組んでいる。新規研究チームの公募は年に2回行う。問い合わせは相談窓口で随時受け付けている。

【参考サイト】

 ・バトンゾーン研究推進プログラムについて https://bzp.riken.jp/

  →BZPの活動をインタビュー記事などで紹介。

 ・公募内容 https://www.riken.jp/collab/programs/entry/

  →BZPやONE TEAMバトンゾーンの紹介を動画で紹介。

【相談窓口】

 理化学研究所 科技ハブ産連本部 産業連携部 バトンゾーン研究推進課

 E-mail:yugorenkei@riken.jp

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